Appleが2014年に発表し、2015年から発売がはじまったApple Watch。
スティーブ・ジョブズ亡き後、ティム・クックがCEOに就任したAppleにおいて、初の新カテゴリー製品として知られています。
では、Apple Watchはスティーブ・ジョブズとまったく無関係の製品なのでしょうか?
この記事ではスティーブ・ジョブズとApple Watchの関係を探ってみます。
ジョブズの死後のディスカッションからApple Watchは生まれた
Appleの元CDOで、 iMac、MacBook、iPod、iPhone、iPadなどのインダストリアルデザイン担当者として知られるジョナサン・アイブは、「スティーブと時計について話したことはなく、自分たちで作ろうとしたこともありません」「彼が時計をしてたいのを見たこともありません」と過去のインタビューで語っています。
つまり、Apple Watchはスティーブ・ジョブズの発案の製品ではないわけです。
なお、ジョナサン・アイブらAppleの幹部たちはジョブズの亡くなった数カ月後の2012年初頭に最初のディスカッションを開始。
自分たちがどこに行こうとしていたのか。企業としてどんな軌道に乗っていたのか。何が自分たちのモチベーションになっていたのか。
そうしたことをじっくりと話し合い、誕生したのがApple Watchでした。
なので、Apple Watchは、スティーブ・ジョブズの死から間接的に生まれた製品とも言えるわけです。
ジョブズが闘病時に感じていた医療への不満
なおスティーブ・ジョブズは2003年に膵臓がんの診断を受け、翌年に手術を受けた後も、病との戦いを長く続けていました。
そして入院時のジョブズは、病院内のヘルスケアのシステムが共有化されずバラバラだったことに失望しており、「患者と医者などの医療提供者との間できちんと連携されていることが重要だ」とも痛感していたそう。
心拍数や血中酸素濃度などの指標のほか、今や心電図の計測が可能なApple Watchは、まさにユーザー個人と医療提供者のギャップを埋めるツールとしての特徴を強めつつあります。
こうした点でも、Apple Watchは、スティーブ・ジョブズと関係がある製品……ともいえるわけです。
Apple Watchの成長で「ジョブズの次の時代」を切り開けるか
そしてApple Watchは、スティーブ・ジョブズ時代のAppleが未着手だった「医療」という分野に進出し、その存在感は日を追うごとに大きくなっています。
Appleが発表した2021年度第3四半期(4~6月)の業績では、Apple Watch などのウェアラブルとホームデバイスとアクセサリーを併せたカテゴリーも急成長。
同カテゴリーの売上高は前年同月比36%増の87億7500万ドル(約9636億円)となり、MacとiPadの売上を初めて上回りました。
ティム・クックも「ユーザーが健康を維持するため、そしてフィットネスの目標を達成するため、Apple Watchは最良の選択肢であり続けている」とコメントをしています。
【あわせて読みたい】Apple Watchの売上が急成長。Appleの基幹カテゴリーへ
なおApple Watchの血糖値センサーについては、かなり以前から開発中との情報が漏れ伝わってきており、新型コロナウイルスの感染拡大以降は体温計測の機能搭載についても、さまざまな噂が流れています。
日本でも「人生100年時代」という言葉が広まり、コロナ禍で健康意識がより高まりつつある今、Apple Watchの存在がより大きくなっていけば、Appleは医療分野でも世界を代表する企業になる可能性があります。
そうした状況が生まれたときにはじめて、Appleは「ジョブズの次の時代」を切り開いた、といえるのかもしれません。
参考文献:『アップルさらなる成長と死角 ジョブズのいないアップルで起こっていること』(2019、竹内 一正/ダイヤモンド社)、『ティム・クック-アップルをさらなる高みへと押し上げた天才』(2019、リーアンダー・ケイニー/SBクリエイティブ)