スマートフォンのケースやスマートウォッチでよく見る「アメリカ国防総省が制定したMIL規格準拠」「ミルスペック」「MIL-STD-810G適合」といった売り文句。
「何だかよく分からないけど、軍隊(ミリタリー)で使えるくらいの頑丈なスペックなんだろうなぁ」と思っている人が多いでしょう。
しかし、詳しい実情を知っている人はそう多くないはずなので、本記事ではその詳細をご紹介します。
MIL規格=タフネスの代名詞のワケ
MIL規格 (ミルきかく) というのは、一般的にアメリカ軍が必要とする各種物資の調達に使われる規格の総称です。
その対象は、複雑な武器システムから、コーヒーメーカーや衣服まで、あらゆる物品に及んでいます。
ただし、私達がスマートフォンのケースやスマートウォッチ、その他の家電製品で見る「MIL規格」というのは、耐環境性試験の規格である「MIL-STD-810」に準拠した試験実績を指しています。
軍隊で使用する物資の規格である「MIL-STD-810」では、防水・防塵、高温・低温、重力・加速度等に一定基準耐えることが必要とされるため、MIL規格=タフネスの代名詞のような扱いになっているわけです。
MIL-STD-810の試験項目は?
MIL-STD-810には、雨、振動、ほこり、湿度、極端な温度、衝撃、塩霧などの広範な環境条件をカバーする試験方法があり、主なテスト方法は次のとおりです。
試験項目 | 説明 |
---|---|
温度試験 (Temperature) | 高温および低温環境での機器の動作および性能を評価します。 |
湿度試験 (Humidity) | 高湿度環境での機器の性能と耐久性を評価します。 |
振動試験 (Vibration) | 機器が振動や衝撃を受けても正常に機能するかを評価します。 |
衝撃試験 (Shock) | 機器が衝撃に耐えられるかをテストします。 |
塩水試験 (Salt Fog) | 塩分を含んだ霧に曝されることによる腐食耐性を評価します。 |
高圧試験 (Altitude) | 高標高環境で機器がどう動作するかを確認します。 |
砂塵試験 (Sand and Dust) | 砂や塵の中で機器がどのように動作するかをテストします。 |
雨試験 (Rain) | 機器が雨にさらされた場合の耐久性や機能性を評価します。 |
光試験 (Solar Radiation) | 太陽光や紫外線(UV)の影響で機器が劣化しないかを確認します。 |
冷却試験 (Thermal Shock) | 急激な温度変化に対する機器の反応を評価します。 |
密封性試験 (Immersion) | 水中に浸して、機器が水の影響を受けずに正常に動作するかを確認します。 |
電磁両立性試験 (EMC) | 他の電子機器との干渉や電磁的影響を評価します。 |
上記のように規格が広範囲にわたる性質上、製品に対してMIL-STD-810の全項目を網羅した試験が行われることはまずありません。
スマホケースやスマートウォッチで主に行われているのは「衝撃(落下)」「温度(高温・低温)」「振動」「耐水」「耐塵(砂、ほこり)」などの試験でしょう。
なので「MIL規格 準拠」と書かれているときも、「どの項目をクリアしているのか」「何項目クリアしているのか」をチェックしたほうがいいでしょう。
また、試験の結果によって公的な品質保証が得られるわけでもないため、消費者は注意が必要です!
MIL規格に準拠しているからといって、アメリカ国防総省が直接試験をして認定を与えているわけでもなく、試験は製品を製造・販売する企業が外部に委託して行っていることが通例なためです。
実際の製品ではどんな試験が行われている?
下記リンク先の「dynabook Vシリーズ」のMIL規格(MIL-STD-810-G)試験内容を見ると、以下のような試験が行われていることが分かります。
これだけの試験が行われていれば、たしかに耐久性は信頼できますね。
試験項目 | 説明 |
---|---|
落下 | 各面、辺、角の26方向から76cm落下テスト |
粉塵 | 6時間にわたって細かい粉塵を吹き付け |
高度 | 高度4,572m相当の気圧まで減圧 |
高温 | 30~60℃の環境下で24時間×7サイクル |
低温 | -20℃の環境下でテスト |
温度変化 | -20~60℃の温度変化を6時間でテスト |
振動 | 前後・左右・上下の各軸1時間の振動テスト |
衝撃 | 6方向×3回、計18回の衝撃を与えるテスト |
太陽光反射 | 24時間×3サイクル照射テスト(太陽光を模した光) |
Vシリーズ – モビリティ|2021年秋冬 | dynabook(ダイナブック公式)
https://dynabook.com/2in1-mobile-notebook-tablet/v-series/2021-fall-winter-model-5in1-convertible/mobility.html#sect-02-06
「MIL-STD-810」の数字やアルファベットの意味は?
なお「MIL-STD-810」の後に「MIL-STD-810G」のようにアルファベットが付くこともありますが、アルファベットはリビジョンの数。つまり「G」の場合はAから数えて7番目なので第7版を表します。
なお最初のMIL-STD-810がリリースされたのは1961年。「MIL-STD-810G」は2008年のリリースで、その後2018年に「MIL-STD-810H」もリリースされています。
ちなみに「STD」は「標準」を意味します(STANDARD)。810は規格番号で、ほかにも下記のような基準があります。
試験項目 | 説明 |
---|---|
MIL-STD-105 | サンプルと試験手順 |
MIL-STD-188 | 電気通信 |
MIL-STD-202 | 電子部品の基準 |
MIL-STD-498 | ソフトウェア開発とドキュメンテーション |
MIL-STD-461 | 電磁波放出の規制に関して |
MIL-STD-806 | (現存せず) いわゆる「MIL論理記号」 |
MIL-STD-810 | 器材に対する環境耐性を決定するための試験方法 |
MIL-STD-882 | システム安全性のための標準作業 |
MIL-STD-883 | 集積回路のための試験方法基準 |
MIL-STD-1234 | 火薬類のサンプリングと試験方法 |
MIL-STD-1246C | スペースハードウェア |
MIL-STD-1474 | 小銃の音響測定の標準化 |
MIL-STD-1553 | デジタル通信 |
MIL-STD-1589 | JOVIAL(プログラミング言語) |
MIL-STD-1750A | 航空コンピュータの命令セット(ISA) |
MIL-STD-1760 | ハイテク兵器インターフェース |
MIL-STD-1815 | Ada(プログラミング言語) |
MIL-STD-1913 | ピカティニー・レールに関して |
MIL-STD-2196 | 光ファイバー通信に関して |
一言にMIL規格といっても、実はいろんな種類があるわけですね。
なお「MIL-STD-810」の正式名称は「Environmental Engineering Considerations and Laboratory Tests」で、ググるとPDFファイルが出てきますが、なんと800ページ以上のボリュームがあるので(もちろん英語)、普通の日本人は読んでも理解できないでしょう……。
MIL規格の歴史と背景
歴史についてもせっかくなので解説しておきます。
MIL規格(Military Standard)は、アメリカ合衆国国防総省(DoD)が制定した標準規格のセットで、元々は軍事装備品の品質、耐久性、安全性を確保するために導入されました。以下はその歴史的背景です。
・起源: MIL規格は、1940年代後半から1950年代にかけて、アメリカの軍事部門が装備品の一貫した品質基準を確立するために策定されました。これにより、異なるメーカーが製造する部品でも、軍事用途において同じ性能が保証されることが求められるようになりました。
・目的: MIL規格の主な目的は、過酷な環境下でも機器や部品が信頼性を持って動作することを保証することです。特に、温度変化、振動、湿度、塩水環境、衝撃、砂埃など、軍事用機器が直面する可能性のある極限状態における耐久性を測定します。
・発展と変化: 時代の進展とともに、MIL規格は進化し、電子機器、コンピュータシステム、通信機器など、より多くのテクノロジー分野に対応するようになりました。現在では、民間製品にもMIL規格に準拠するものが増えています。
MIL規格とIP規格の違い
MIL規格のほかに「IP規格」というものも聞いたことがある人は多いと思います。
MIL規格とIP規格(Ingress Protection)は、製品の耐久性や保護性能に関する基準ですが、適用される環境や評価基準が異なります。
・MIL規格(Military Standard):
MIL規格は、過酷な環境条件での耐久性を重視しています。特に、極端な温度、湿度、衝撃、振動、塩水、砂塵など、軍事用途で想定される過酷な状況に対応したテストが中心です。
MIL規格は、軍事機器や装備の標準として制定されたもので、その基準に適合することで製品が極限状態でも機能することが保証されます。
・IP規格(Ingress Protection):
IP規格は、製品がどれだけ外部の固形物(塵やゴミ)や水分から保護されているかを示します。これにより、製品がどの程度防塵・防水であるかを評価します。
IP規格の評価は、特に電子機器や家庭用機器に焦点を当てており、防塵・防水に関して詳細な等級(IP67やIP68など)があります。
主な違い:
・環境条件: MIL規格は非常に過酷な軍事環境での使用を前提としているのに対して、IP規格は主に家庭や一般的な商業環境での耐性を測定します。
・評価内容: MIL規格は温度や振動、塩水など多岐にわたる環境での耐性を測るのに対し、IP規格は主に塵や水の侵入からの保護を評価します。
自分の持っているガジェットでMIL規格を謳っているものがあったら、どの規格のどんな項目をクリアしているのかチェックしてみるといいでしょう。
●執筆者:スマートウォッチライフ編集部
日本初のスマートウォッチのウェブメディア。編集部には50本以上のスマートウォッチがあり、スマートウォッチ・Apple Watchの選び方や入門者向けの記事を多く配信しています。日本唯一のスマートウォッチ専門ムック本『SmartWatchLife特別編集 最新スマートウォッチ完全ガイド』(コスミック出版)を出版したほか、編集長はスマートウォッチ専門家としてテレビ朝日「グッド!モーニング」や雑誌『anan』(マガジンハウス)にも出演。You Tube「スマートウォッチライフ」(チャンネル登録者7000人程度)でも各種レビューを行っています!
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