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スマートウォッチやスマートリングは、心拍・睡眠・位置情報を毎日記録し、スマホやメーカーのクラウドに送り続けています。そのデータをめぐる事件は実際に起きています。2020年にはガーミンのサービスがランサムウェア攻撃で数日間止まり、2026年には、主要10社のうち健康データを暗号化して保存していたのはAppleだけだったという調査も出ました。
この記事では、2016年から2026年までの実例7件と、買う前と使い始めに自分でできる対策をまとめます。「中国製は信用していいのか」という不安の背景も整理しました。
心拍・睡眠・位置情報を毎日クラウドへ送ることがリスクの元

スマートウォッチやスマートリングは、寝ている間も含めて一日中身に着ける機器です。情報漏洩が心配されるのは、次の3つの性質があるためです。
・心拍数やストレスレベル、睡眠パターンなど、極めてセンシティブな情報を収集
・スマートフォンやクラウドと常時接続・常時同期
・海外製品では、国外サーバーにデータが保管されるケースも
それぞれのセンサーが何をどう測っているかは、主要センサー6種をやさしく整理した記事で解説しています。
なお、IoT機器のセキュリティ確保は公的にも重視されており、IPA(情報処理推進機構)も、こうした機器には「適切なセキュリティ対策が行われていることが必須」だと注意喚起しています。
リスクは5種類 裏口・暗号化不足・海外サーバー・アプリ連携・データの販売
| リスク項目 | 内容 |
|---|---|
| バックドア | 開発元が意図的・非意図的に設けた裏口から、外部がデータにアクセスできる恐れ |
| 通信の暗号化不足 | BluetoothやWi-Fi通信が暗号化されていない場合、盗聴・改ざんのリスク |
| クラウド保存による流出 | 海外サーバーに保存された場合、現地法の影響で政府などが閲覧可能な場合も |
| サードパーティ連携 | 他のアプリと連携することで、無意識に個人情報を共有してしまうリスク |
| データの営利利用 | 無料アプリや低価格製品では、ユーザーデータが広告目的で第三者に販売されることも |
中国製スマートウォッチが不安視される理由は国家情報法・米国の制裁・情報の少なさ

とくに中国製スマートウォッチやスマートリングに対しては、以下のような不安が指摘されています。
・国家情報法:中国企業は政府の要請があれば、データ提供を義務付けられる可能性あり
・米国の制裁:Huaweiなどが米国の制裁対象になった過去があり、信頼性を疑問視する声がある
・情報の少なさ:製品の仕様やデータの扱いについて、公開されている情報が少ないメーカーもある
ただし、中国のメーカーだからといって一律に危ないとは言えません(中国メーカーの実情はこちら)。確かめたいのは、データを保存するサーバーがどの国にあるか、運営会社はどこか、プライバシーポリシーに第三者へ渡す条件が書かれているか、の3点です。日本で売られているIoT製品なら、後で紹介するIPAのラベル「JC-STAR」も目安になります。
2016〜2020年に起きた4つの事件

1. 子ども向けの「Xplora X4」に遠隔で撮影できる裏口(2020年)
2020年、ノルウェーの企業Xploraが販売する子ども向けスマートウォッチ「Xplora X4」に、リモートからカメラを操作して写真を撮影したり、音声通話を傍受したりできるバックドアが存在することが明らかになりました。端末とアプリの開発・製造は中国の奇虎360グループが担当していて、セキュリティ研究者がこの裏口を見つけました。
2. ガーミンのサービスがランサムウェアで数日間停止(2020年)
2020年7月23日、スポーツウォッチ大手のガーミンがサイバー攻撃を受け、社内と顧客向けのシステムが暗号化されました。アクティビティを同期するGarmin Connectやサポート窓口が数日間止まり、原因はランサムウェアだったと報じられています。ガーミンは、アクティビティや決済などの個人情報に外部からアクセスされた形跡はないと発表しました。
スロバキアのセキュリティ企業ESETは、事件から2カ月後の2020年9月、自社のブログ「WeLiveSecurity」でこの件を取り上げました。スマートウォッチやサイクルコンピューターが記録する運動データは、心拍・速度・標高に、いつどこを走ったかという正確な位置情報が結びついたものです。ESETは、こうしたスポーツのデータも、条件しだいで健康データと同じくらい重く扱うべきだと指摘しています。
ESETが特に注意を促したのは、ランサムウェアの手口の変化です。当時すでに、データを暗号化して使えなくするだけでなく、盗み出してネットにさらしたり、闇サイトで競売にかけたりする攻撃が出ていました。ガーミンの件でデータが盗まれたとは報じられていませんが、ESETは、運動データを扱う企業はリスクを見直すべきだとしています。会員の記録を預かるフィットネスクラブやパーソナルトレーナー、医療に近い理学療法士なども、同じように狙われうるという見方です。
利用者側の対策としてESETが挙げているのは2つです。使っているサービスからデータが流出した、またはその疑いがあるときは、提供元に個人情報の悪用を監視するサービスを求めること。そして流出のあとしばらくは、盗まれた記録を手がかりにした狙い撃ちの詐欺メールや、なりすましに気をつけることです。サービスが止まった5日間に何が起きたのか、事件の経緯は「Garmin(ガーミン)のランサムウェア被害」で詳しくまとめています。
3. Stravaのヒートマップで軍事施設の位置が見えた(2018年)
2018年、運動記録アプリ「Strava」が集めた利用者の位置情報から、軍事施設内のルートや軍関係者の移動ルートなどが意図せず明らかになることが分かりました。Stravaは、利用者が走ったルートを世界地図に重ねて見せるヒートマップを公開していて、基地の中を走る兵士の記録がそのまま地図に浮かび上がっていました。
※この「Stravaの軍事拠点流出事件」のその後の経過とStrava側・各国軍の対応、スマートウォッチ利用者が今押さえておきたい教訓については、別記事「ランニングの位置情報記録から軍事機密が漏洩!|スマートウォッチ公開設定見直しをStrava事件から考える」で詳しく解説しています。
4. モーションセンサーの記録から暗証番号を推測(2016年)
2016年、米国のスティーブンス工科大学とビンガムトン大学の研究チームが、スマートウォッチなどのモーションセンサーのデータから、キーパッドで入力した暗証番号を推測できると発表しました。20人が3種類の端末を着けてATM型などのキーパッドを打った5,000回以上の記録を分析したところ、1回目の推測で80%、3回までに90%以上の精度で暗証番号を当てられたといいます。
暗号化・偽物の接続・位置情報 2026年に分かった3つのリスク

ここまでの4件は2016年から2020年にかけての出来事です。では最近はどうなのか。2026年に入ってから分かったことを3つ補足します。
5. 健康データを暗号化して保存していた主要メーカーはAppleだけ(EFF調査)
電子フロンティア財団(EFF)が2026年7月15日に公開した調査で、消費者向けウェアラブル主要10社(Amazfit、Apple、Coros、Garmin、Google/Fitbit、Hume、Oura、Polar、Suunto、Whoop)の公開ポリシーが精査されました。その結果、保存された健康データをエンドツーエンド暗号化していたのはAppleだけだったと報告されています。
つまり残りの各社では、正式な召喚状が届けば心拍・睡眠・GPSといったデータが読み取れる形で提出されうる、という構図です。多くのメーカーが法執行機関へのデータ提供状況を示す透明性レポートを公開していない点も指摘されました。詳しくはEFF調査を整理した記事にまとめています。
6. 偽物のスマートウォッチが、本物のふりをしてiPhoneにつながった
2026年8月、ドイツのダルムシュタット工科大学の研究者が、Apple Watchをソフトウェアで再現してiPhoneとの接続に成功したと発表しました。Apple独自の接続手順を最後まで通してしまい、本物だけを通すためのデバイス認証は見つからなかったとされています。
Apple WatchはiPhoneとメッセージ、Wallet、健康データまで共有します。そこに正規品以外がつながりうるという指摘は、模倣品を避ける理由がひとつ増えたということでもあります。研究の中身は「偽のApple WatchがiPhoneにつながった」で詳しく取り上げています。
7. 使っていない端末が、位置情報「常に」で動き続けていた
もっと身近な話もあります。編集部で、その日一度も指につけていないスマートリングのアプリが、iPhoneのバッテリー消費で3位に入り、バックグラウンドで10時間以上動いていたことがありました。原因は位置情報の権限が「常に」のままだったことです。
漏洩事件ではありませんが、使っていない端末のアプリが、気づかないうちに位置情報を取り続けられる状態にあることを示しています。経緯と権限を見直す手順は「指につけていないスマートリングが、iPhoneのバッテリーを裏で削っていた」に書きました。
自分でできる対策7つ 権限・アップデート・解約方法を確かめる

| 対策内容 | 詳細 |
|---|---|
| 利用規約・プライバシーポリシーの確認 | データの保存場所・利用目的・第三者提供の有無を事前に確認 |
| 権限設定の見直し | 位置情報や連絡先、通知など、必要最小限のアクセス権に制限 |
| 信頼性の高いブランドを選ぶ | Apple、Garmin、Withingsなど、セキュリティに配慮したブランドを選択 |
| アップデートを欠かさない | ファームウェアやアプリを常に最新状態に保ち、脆弱性をふさぐ |
| 連携アプリの精査 | 不要なサードパーティアプリやサービス連携を避ける |
| 位置情報は「使用中のみ」に | 使っていない端末のアプリが「常に」のまま動き続けることがある。定期的に権限を棚卸しする |
| 解約の導線を先に確かめる | 海外事業者のアプリは「解約できない」という相談が最も多い。契約前に解約方法と問い合わせ窓口を確認 |
解約について補足すると、国民生活センターの越境消費者センターに2025年度に寄せられた相談は9,127件と開設以降で最多になり、そのうち53.0%が「解約できない」でした。報告書は対象としてフィットネスアプリを名指ししています(越境消費者センターの報告の詳細)。入る前に、やめ方を確かめておくのが確実です。
こうした「信頼できる製品を選ぶ」ための物差しとして、日本でもIPAが、IoT製品のセキュリティ機能を評価・可視化するラベル制度「JC-STAR」を整備しています。
まとめ:買う前と使い始めに確かめたいこと

7件の実例は、大きく3つに分かれます。メーカーのサービスが攻撃されて止まるもの(ガーミン)、端末や設定の穴から情報が漏れるもの(Xplora、Strava、モーションセンサー、偽物のApple Watch)、預けたデータがどう保存されているか利用者から見えないもの(EFFの調査)です。
買う前は、怪しい製品の見分け方に加えて、メーカーの国とサーバーの所在地、データの暗号化について公式の説明があるかを確かめます。使い始めたら、アプリの位置情報の権限と、運動記録の公開範囲を見直します。サービスから流出の知らせが届いたら、その後しばらくは不審なメールに気をつけてください。
あわせて、事業者側が守るべきルールを国が定めていることも知っておくと安心です。同意なしにデータを取ってよいのか、退会したら消してもらえるのかは国のルールを条文から整理した記事で解説しています。
参考にした海外メディア・公式情報
TechCrunch|Garmin confirms ransomware attack outage(ガーミンへのランサムウェア攻撃の事実関係)
ESET WeLiveSecurity|Sports data for ransom – it’s not all just fun and games anymore(運動データの価値とランサムウェアの手口の変化)
TechCrunch|Fitness app Strava exposes the location of military bases(フィットネスアプリによる位置情報の露出)
TechCrunch|Wearables can leak your PINs and passwords(モーションセンサーからの入力推測研究)
IPA|IoTのセキュリティ(IoT機器のセキュリティ対策の必要性)
IPA|JC-STAR(IoT製品のセキュリティ適合ラベル制度)(信頼できる製品選びの公的な物差し)
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●執筆者:スマートウォッチライフ編集部
日本初のスマートウォッチのウェブメディア。編集部には50本以上のスマートウォッチがあり、スマートウォッチ・Apple Watchの選び方や入門者向けの記事を多く配信しています。日本唯一のスマートウォッチ専門ムック本『SmartWatchLife特別編集 最新スマートウォッチ完全ガイド』(コスミック出版)を出版したほか、編集長はスマートウォッチ専門家としてテレビ朝日「グッド!モーニング」や雑誌『anan』(マガジンハウス)にも出演。You Tube「スマートウォッチライフ」(チャンネル登録者8000人程度)でも各種レビューを行っています!
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