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次世代ウェアラブルが“脳”に届く日──髪の上から脳波を3日以上計測できる新ゲル電極、米ペンステート大が発表

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VR(仮想現実)でモノに触れたときの「感触」を、もっと本物らしく感じられるようにしたい。そんな研究を支える地味だけれど大事なパーツが「脳波を測る電極」です。米ペンシルバニア州立大学の研究チームは、髪の毛をかき分けなくても頭皮にしっかり密着し、3日以上つけたままでも信号品質が安定する新しいヒドロゲル電極を発表しました。研究は2026年5月15日付の科学誌『Science Advances』に掲載されています。Source:Science Advances

難しい話を一度カッコの外に置いて、ざっくり言うとこういうことです。これまで脳波(EEG)の電極は、塗ったゼリーが乾いてしまったり、髪の毛のせいで肌にうまく接触できなかったりと、長時間使うのが苦手でした。今回の研究はその「乾き」と「髪」という2つの弱点を、ゲルの作り方を工夫することでまとめて解決したという内容です。VRやARでの触感再生(ハプティクス)、いわゆる「触ったときの感覚をデジタルで作り出す技術」を高めるための、基礎的だけれど重要な一歩と位置づけられています。

Image source: Smart Watch Life (AI generated)

髪の上から脳波を測るのが、なぜ難しいのか

脳波計測というと、頭にたくさんの電極をつけてゼリーを塗っているイメージを思い浮かべる方も多いはずです。あの白いゼリーは、頭皮と電極のあいだに入って電気信号をうまく拾うためのものですが、時間が経つと乾いて信号が悪くなり、医療現場では数時間ごとに塗り直しが必要になります。さらに髪の毛が間に挟まると、それだけで皮膚との接触インピーダンス(電気的な抵抗)が跳ね上がり、ノイズが増えてしまいます。

研究チームが目指したのは、ゼリーの代わりにそのまま頭皮に押し当てられて、髪の毛の隙間を埋めるように流れ込み、そのあとぴたっと固まって動かなくなる「賢いゲル」です。温めると柔らかく流れ、冷めると固まる「熱可逆性」を持ち、同時に電気もしっかり通せる素材であれば、長時間つけっぱなしの脳波測定が現実的になります。

2種類の作り方で「ねばり」と「電気の通り」を両立

研究チームは、導電性プラスチックとして知られるPEDOT:PSSと、お菓子や薬のカプセルにも使われるゼラチン(または寒天)、グリセリン、そしてイオン液体を組み合わせた「イオンバイオゲル」を開発しました。ポイントは、混ぜる順番を変えるだけで2種類の構造を作り分けたところです。

1つめは、ゼラチン側がまだサラサラの液体状態のうちにPEDOT:PSSを混ぜる方法(NC=Nucleated型)。この場合、PEDOTは小さな粒のように散らばり、電気はおもにイオン液体を介して流れます。2つめは、ゼラチンを先に少し固めて粘りを出した状態でPEDOT:PSSを混ぜる方法(BC-MP=Bicontinuous型)。こちらはPEDOTが網目状につながり、ポリマー自体が「電気の通り道」を作ります。

この2つの違いは、生物の細胞内で起きている「相分離」と呼ばれる現象とよく似ていて、研究チームはこの自然界の原理を材料設計に応用しました。難しい話ですが、要するに「材料の混ぜ方ひとつで、柔らかさと電気特性のバランスを自由に調整できる」という発見が、今回のキモです。

市販ゲルの数十分の一という接触インピーダンス

性能はかなり印象的です。新しいイオンバイオゲルは、髪の上から押し当てた状態で、皮膚との接触インピーダンスを1kHzで約1.6 kohm·cm²に抑えました。同じ条件で測った市販ゲルは100 kohm·cm²を超えており、桁が2つ違うレベルで電気の通りが良いことになります。

研究チームは、毛量や髪質の異なる8人の被験者で実験を行い、汗をかいた直後の状態や、シャワーを浴びずに皮脂がたまった状態など、現実の使われ方に近い条件でも安定して動くことを確認しました。さらに、同じ電極を3日間使い続けても性能はほぼ変わらず、BC-MP型に至っては10日後でも増加は約500オームにとどまっています。一方、市販ゲルは1日目に6 kohm·cm²だった値が3日目には64 kohm·cm²まで上昇し、長期使用では明確な差がついています。

VRの触感をもっとリアルにするための「目」

このゲルが注目される本当の理由は、AR/VR向けの「ハプティクス(触覚再現)」研究と相性が良い点にあります。研究チームは、被験者の腕の神経に微弱な電気刺激を与えて触った感覚を作り出す実験と、その間の脳波測定を同時に行いました。すると、運動や感覚に関係する脳の領域でERD(事象関連脱同期)と呼ばれる典型的な脳活動の変化を、長時間にわたって安定的にとらえることができました。

ERDは、人が何かに触れたり動いたりするときに脳波の特定の成分が一時的に下がる現象で、「人が刺激をちゃんと感じ取れているか」を客観的に評価するための指標として使われます。これが安定して測れるということは、VRで作り出した触感が「本当に脳に届いているのか」を、本人の主観報告に頼らず数値で検証できるということです。将来、AR/VRデバイスがユーザーの反応を読み取って触感の強さや質を自動調整する「閉ループ型」のシステムを作るうえで、土台となる技術になると期待されています。

すぐに製品化されるわけではないけれど

今回のイオンバイオゲルは、ペンシルバニア州立大学を中心とする研究チームの基礎研究成果であり、まだ一般消費者向けの製品として市販されているわけではありません。ただ、ウェアラブルデバイスや医療機器、AR/VRヘッドセットなどに応用できる可能性は十分にあります。スマートウォッチが心拍や体温だけでなく、脳活動や感覚情報まで扱う未来を考えるうえで、こうした「皮膚と電気をつなぐ素材」の進化は知っておいて損のないトピックです。

Smart Watch Lifeでは、ウェアラブル技術に関わる海外の研究動向についても、続報が入り次第お届けしていきます。

まとめ

米ペンシルバニア州立大学の研究チームが、髪の上から脳波を3日以上安定して計測できる新型ヒドロゲル電極を発表しました。温めると流れ、冷めると固まる「熱可逆性」と、電気をしっかり通す導電性を両立した点が大きな特徴で、AR/VR向けの触覚再現研究や、長時間のヘルスモニタリングを支える基盤技術として注目されています。製品化はこれからですが、私たちが毎日身につけるウェアラブルが「身体の表面」を超えて「神経や脳」までを扱う未来を、少し近づける成果と言えそうです。

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