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紛失防止タグを相手の承諾なく取り付けて位置情報を取得する行為は、ストーカー規制法の規制対象です。改正法は2025年12月10日に公布され、大部分が2025年12月30日、残る一部も2026年3月10日に施行されました。二段階の施行がすべて終わり、いまはこの改正が全面的に効いている状態です。
ただ、何がどう変わったのかは、あまり知られていません。とくに見落とされやすいのが、対象が紛失防止タグに限られないことです。警察庁の資料には「タグと同様に位置情報を特定する機能を持つ機器(イヤホン等)も含む」という注記があります。スマートウォッチやワイヤレスイヤホンを使う人にとっても、他人事ではない改正です。
警察庁が公開している改正の概要・規制対象行為・新旧対照条文をもとに、何がどう変わったのかを整理します。
改正で新たに禁止された2つの行為

改正で追加されたのは赤字の「紛失防止タグ」だけ(出典:警察庁「ストーカー規制法の規制対象行為」)
今回の改正で「位置情報無承諾取得等」に追加されたのは、次の2つです。
・相手の承諾を得ないで、紛失防止タグにより位置情報を取得すること
・相手の承諾を得ないで、相手が所持する物に紛失防止タグを取り付けること等
具体例として挙げられているのは、次のような行為です。
・相手が所持する車両に、GPS機器や紛失防止タグを無断で取り付ける
・GPS機器や紛失防止タグをひそかに取り付けた物を、相手に渡す
・取り付けられたタグから、その位置情報を取得する
3つめの「渡す」が入っているのが実務的なところです。プレゼントの箱や貸したカバンにタグを忍ばせて手渡す、という形でも規制の対象になります。
なお、相手のスマートフォンに無断でインストールした位置情報アプリを使って位置情報を取得する行為は、改正前からすでに規制対象でした。
条文は「紛失防止タグ」と書いていない

タグ自身はGPSを持たず、周囲のスマートフォンが位置を肩代わりする(出典:警察庁「改正の概要」)
新旧対照条文を見ると、追加された第2条第3項第2号に「紛失防止タグ」という言葉は出てきません。代わりに置かれているのが「位置特定用識別情報送信装置」という、やや長い定義です。
条文はこの装置を、自分を識別する情報を電波で送信する機能を持ち、その電波を周囲で受け取った別の機器の位置情報を利用して、自分の居場所を特定するために使われる装置、という趣旨で定義しています。
これは紛失防止タグの仕組みそのものです。タグ自体はGPSを内蔵していません。自分のIDを短い電波で飛ばしているだけで、その電波をたまたま近くを通った他人のスマートフォンが拾い、そのスマートフォンの位置を「タグの居場所」として持ち主に知らせるという作りになっています。
装置の名前ではなく機能で線を引いたため、同じ仕組みで居場所がわかる機器はすべて入ります。警察庁のポスターが「イヤホン等も含む」とわざわざ注記しているのは、このためです。実際、ワイヤレスイヤホンの多くは紛失防止タグと同じ位置検索ネットワークに対応していて、ケースごと相手のカバンに入れれば、タグとまったく同じことができてしまいます。
SWLでも、バッグから見知らぬワイヤレスイヤホンが出てきたという投稿をきっかけに注意喚起が広がった件を取り上げました。改正は、こうした使われ方を条文の側から塞いだ形です。
「知らないAirPodsがバッグに入っていた」──Xの投稿をきっかけに広がる“位置情報ストーキング”への注意喚起
自分の荷物や家族の見守りに使うぶんには変わらない
ここは誤解されやすいところなので、先にはっきりさせておきます。紛失防止タグを自分の持ち物に付けて使うことは、これまでどおり何の問題もありません。
ストーカー規制法が定める「位置情報無承諾取得等」には、条文上2つの要件が両方そろう必要があります。
| 要件 | 条文の書き方 |
|---|---|
| 目的 | 特定の者に対する恋愛感情その他の好意の感情、またはそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的 |
| 承諾 | その承諾を得ないで、位置情報を取得する・装置を取り付ける等をすること |
自分の財布や鍵に付けるのは、そもそも相手がいません。子どものランドセルに付ける、高齢の家族の外出に備えて付けるといった見守りの用途も、恋愛感情や怨恨の感情を満たす目的ではないため、この条文の射程には入りません。
一方で、元交際相手や配偶者の持ち物に無断で付ける行為は、まさに条文が想定している場面です。線引きは「誰の物に」「どんな目的で」「承諾があるか」の3点にあります。
相談件数は3年で3件から370件に増えた

紛失防止タグ(赤)は令和3年の3件から令和6年の370件へ(出典:警察庁「改正の概要」)
改正を後押ししたのが、相談件数の伸びです。警察庁が公表した、GPS機器等と紛失防止タグが用いられたストーカー事案の相談等件数は次のとおりです。
| 年 | GPS機器等 | 紛失防止タグ |
|---|---|---|
| 令和3年(2021年) | 152件 | 3件 |
| 令和4年(2022年) | 404件 | 113件 |
| 令和5年(2023年) | 486件 | 196件 |
| 令和6年(2024年) | 513件 | 370件 |
警察庁「ストーカー行為等の規制等に関する法律の一部を改正する法律(概要)」より
GPS機器等が152件から513件へと3.4倍になったのに対し、紛失防止タグは3件から370件へ、3年で100倍を超える増え方をしています。件数そのものはまだGPS機器等が上ですが、差は4年で急速に縮まりました。
紛失防止タグは数千円で買えて、電池が年単位で持ち、厚みは1円玉数枚ぶんしかありません。GPS機器のように充電を気にする必要もない。悪用する側から見たときの手軽さが、そのまま件数に出た数字と読めます。
GPSは規制済みだったのになぜタグだけ抜けていたのか
GPS機器を使った位置情報の取得は、今回の改正より前からストーカー規制法の対象でした。きっかけは、令和2年(2020年)7月の最高裁の判断です。相手の自動車にGPS機器を取り付けて位置を把握する行為について、最高裁は当時の条文が定める「住居等の付近において見張り」には当たらないと判断しました。
この判断で法律の穴がはっきりしたため、その後の改正で「位置情報無承諾取得等」という類型が新設され、GPS機器等が規制対象に加えられました。
ところが、この規制の対象は「位置情報記録・送信装置」、つまり自分の位置情報を自分で記録したり送信したりできる装置に限られていました。紛失防止タグは、前述のとおり自分では位置を持ちません。周りのスマートフォンに位置を教えてもらう仕組みなので、条文の定義から外れていたわけです。
改正前の法規制の対象外である、と警察庁の資料が明記しているのはこの点です。今回、機能で書かれた新しい定義を1号分まるごと足すことで、この隙間が埋まりました。
被害者が申し出なくても警察が警告できるようになった
2つめの柱が、職権による警告の創設です。
改正前の第4条は、警察本部長等が警告をするには「警告を求める旨の申出を受けた場合において」という条件が付いていました。被害者本人が警察に「警告してほしい」と申し出ない限り、警告という手段が使えなかったということです。
改正後はこの条件が外れ、違反行為があり、かつ繰り返すおそれがあると認めるときは、相手方の申出によるか、または職権で警告ができるようになりました。
あわせて、警告した内容と日時を通知する相手も変わりました。改正前は「申出をした者」でしたが、改正後は「違反行為の相手方」、つまり被害者本人に通知することになっています。職権で警告した場合でも、警察が動いたことは被害者に伝わります。
申出をためらう被害者にも寄り添った対応が可能になる。そう説明したうえで、警察庁は次のような事例を挙げています。
・避難中の相手方の実家の情報を探偵業者から入手した行為者が、その実家に刃物を持って押し掛けた
・相手方の自宅付近を包丁を持ってうろついた行為者が、その約4か月後に相手方が通う高校に侵入し、包丁を所持して待ち伏せした
いずれも、被害者が申し出るのを待っていては間に合わない類の事案です。
勤務先と学校も援助する側に加わった
3つめの柱は、被害者への援助に努める主体の拡大です。
改正前の第9条第3項は、援助の努力義務を負う主体として「ストーカー行為等が行われている地域の住民」だけを挙げていました。改正後は、ここに被害者を雇用する者と、被害者が就学する学校の長が加わっています。
背景にあるのは、ストーカー行為が行われている場所と、被害に遭う場所が一致しないケースです。自宅の近所では何も起きていないのに、勤務先や学校で被害に遭う。地域住民だけを主体にしていると、こうした場面で誰も動けません。
警察庁のポスターは、勤務先・学校にできる配慮の例として、学校のホームページ等に氏名などの掲載を控えること、勤務場所や時間といった勤務形態への配慮を挙げています。警察庁から都道府県警察に対しても、勤務先・学校と一層の連携を図るよう指示が出ています。
2026年3月10日からは居場所を教える側にも要請が届く
4つめの柱だけは、施行が3か月遅れて2026年3月10日からになりました。
前提として、ストーカー行為等をするおそれがある者だと知りながら、その者に被害者の氏名や住所などを教える行為は、改正前からすでに禁止されています(第6条第1項)。今回新設されたのは、その先の手続きです。
改正後の第6条第2項では、警告や禁止命令等があった場合に、被害者の情報を持っている、あるいは持とうとしている者が、警告等を受けた本人に情報を渡すおそれがあると認めるとき、警察本部長等がその相手に対して、情報提供先がストーカー行為等をするおそれがある者であることを通知したうえで、提供を行わないよう求めることができるようになりました。
想定されているのは、先に挙げた事例のような探偵業者をはじめとする第三者です。情報提供をすることでストーカー規制法違反の幇助犯等として検挙される可能性がある、という注意もポスターに明記されています。
なお、禁止命令等を行う公安委員会の範囲も広がりました。改正前は被害者の現在の住所地などを管轄する公安委員会に限られていましたが、改正後は被害行為が行われた時点での住所地を管轄する公安委員会も加わります。被害者が引っ越したあとでも、もとの土地で手続きを続けられるということです。
いつから何が変わったのか

改正の4点と相談先をまとめた広報ポスター(出典:警察庁・都道府県警察)
| 施行日 | 内容 |
|---|---|
| 2025年12月30日 | 紛失防止タグを用いた位置情報の無承諾取得等を規制対象行為に追加 |
| 2025年12月30日 | 職権での警告を創設 |
| 2025年12月30日 | 援助の努力義務の主体に、被害者の勤務先と学校の長を追加 |
| 2025年12月30日 | 禁止命令等を行う公安委員会に、被害行為時の住所地を管轄する公安委員会を追加 |
| 2026年3月10日 | 警察本部長等が、情報提供を行わないよう求めることができる制度を新設 |
警察庁「ストーカー規制法が改正されました!」より作成
法律の公布は2025年12月10日です。
身に覚えのないタグに気づいたときは
iPhoneにもAndroidにも、持ち主ではない人と一緒に移動し続けている紛失防止タグを検知して通知する機能が入っています。自分のものではないタグが近くにあると知らせてくれるので、通知が出たらまず落ち着いて、カバンや衣類、自転車のサドルの裏、車内などを確かめてみてください。
見つかったタグをその場で捨てたり壊したりする前に、警察に相談することをおすすめします。取り付けた側を特定するための材料になり得るためです。
警察庁が案内している相談先は次のとおりです。
| 状況 | 連絡先 |
|---|---|
| 緊急のとき | 110番 |
| その他の相談 | 警察相談専用電話 #9110 |
最寄りの警察署に直接相談することもできます。改正によって、被害者が「警告してほしい」と申し出なくても警察が動けるようになったので、まずは事実を伝えるところからで構いません。
まとめ
今回の改正で規制対象行為に加わったのは、紛失防止タグに関する部分です。条文は製品名ではなく仕組みで書かれているため、周囲の機器に位置を教えてもらう方式の機器は、イヤホンであっても同じ扱いになります。
一方で、要件には「恋愛感情その他の好意の感情またはそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的」と「承諾を得ないで」が両方入っています。自分の持ち物に付ける、家族の見守りに使うといった本来の用途が規制されるわけではありません。
紛失防止タグに関する相談は2021年の3件から2024年の370件まで増えました。便利さと悪用のしやすさが表裏にある道具である以上、使う側も、身に覚えのない通知を受け取る側も、仕組みを知っておいて損はありません。
Source:警察庁「ストーカー規制法が改正されました!」/改正の概要(PDF)/規制対象行為(PDF)/ポスター(PDF)/新旧対照条文(PDF)
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