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スマートウォッチの健康機能の中で、いちばん「本当に当たるのか」と疑われてきたのが睡眠時無呼吸の検出です。医療機関では一晩かけて何本ものセンサーを体に付けて調べる検査を、手首の1台がどこまで代われるのか。その疑問に、スタンフォード大学の研究チームが正面から答えを出しました。
対象になったのはSamsungのGalaxy Watchです。152人が実際に睡眠検査室に泊まり込み、病院の検査とウォッチの判定を突き合わせた結果、中等度から重度の閉塞性睡眠時無呼吸を見分ける精度は、統計上かなり高い水準に達していました。
ただし、この結果には読み方があります。そして日本で同じことが試せるのかについても、確認しておきたい点があります。順番に見ていきます。
スタンフォード大学が152人を調べた前向き研究
今回の研究は、睡眠医学の専門誌Journal of Clinical Sleep Medicineに掲載されたものです。米国の臨床試験登録データベースにも「NCT06603441」として登録されており、実施主体はスタンフォード大学、協力企業としてSamsung Electronicsが名を連ねています。研究は2024年12月に始まり、2025年12月に完了しました。
参加したのは22歳以上の152人。すでに中等度から重度の睡眠時無呼吸と診断されている人か、いびきや日中の眠気などを点数化する「STOP-Bang」という質問票で3点以上、つまり可能性が高いと判断された人たちです。
進め方は次のようになっています。まず睡眠検査室に泊まって終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG)を受け、その後3晩以上は自宅でウォッチだけを着けて眠り、もう一度検査室に泊まる。最終的に147人が2回の検査を完了し、院内で記録された睡眠データは合計1,850時間にのぼりました。
ここで比較の相手になっているPSGは、脳波・眼球運動・筋活動・心電図・気流・呼吸努力・血中酸素を同時に記録する、睡眠障害の診断における基準となる検査です。精密なかわりに、専用の設備と技師と一晩の入院が要ります。費用も時間もかかり、住んでいる場所によっては受けること自体が難しい。だからこそ、着けて寝るだけのウォッチに期待が集まっているわけです。
なお、睡眠時無呼吸症候群(SAS)は厚生労働省の健康用語辞典でも「眠り出すと呼吸が止まってしまうため、過眠や高血圧などを引き起こす病気」と説明されているとおり、放置してよいものではありません。
ウォッチが推定するのは「AHI」という指標

睡眠時無呼吸の重さを表す物差しとして広く使われているのが、AHI(無呼吸低呼吸指数)です。眠っている1時間あたりに、呼吸が止まる(無呼吸)か浅くなる(低呼吸)状態が平均で何回起きたかを示します。今回の研究では、1時間あたり15回以上を「中等度から重度」と定義しました。
Galaxy Watchは、このAHIをセンサーの測定値から推定した数値、いわゆるeAHIとして算出します。研究では、このeAHIとPSGが出した本当の分類を突き合わせています。
ただしAHIには弱点があります。回数は数えられても、そのとき酸素がどれだけ深く、どれだけ長く下がったかまでは表現できないのです。同じ「1時間に20回」でも、一瞬だけ浅く下がる人と、長く深く落ち込む人では体への負担がまるで違います。スマートウォッチが出す睡眠データをどう読むかについては、厚生労働省の睡眠ガイドと照らし合わせた記事でも整理しています。
そこで研究チームは、AHIとは別に「低酸素負荷」という指標も併せて評価しました。酸素低下の深さ・長さ・頻度をまとめて捉える考え方で、これまでの研究では、単純な回数よりも心臓や代謝のリスクとの結びつきが強いと報告されています。
結果は「見分ける力」を示すAUCで0.94
中等度から重度の睡眠時無呼吸を検出する性能は、AUC(曲線下面積)という指標で0.94でした。95%信頼区間は0.889から0.980です。
AUCは、ある検査が病気の人とそうでない人をどれだけきれいに分けられるかを0から1で表したものです。1が完璧、0.5はまったくの当てずっぽうと同じ。0.94は、統計の世界では「よく分けられている」と評価される水準にあたります。
閾値ごとの成績は次のとおりです。
| 判定の設定 | 感度(見つけられる割合) | 特異度(間違えない割合) |
|---|---|---|
| 初期設定(eAHI 15) | 94.1% | 66.7% |
| 今回のデータに最適化(eAHI 25.95) | 82.4% | 94.9% |
感度は「実際に病気の人を取りこぼさずに拾えた割合」、特異度は「病気でない人を誤って病気だと言わなかった割合」です。初期設定では、本当に中等度以上だった人の94.1%を拾えた一方、そうでない人の3分の1ほどを誤って引っかけていることになります。
これは欠陥ではなく、設計思想の違いです。見逃しをできるだけ減らしたいなら感度を優先し、余計な受診を増やしたくないなら特異度を優先する。どちらが正しいかは、その仕組みを何のために使うかで変わります。ウォッチの初期設定が感度寄りになっているのは、まず気づかせることを目的にしているからでしょう。
「酸素の落ち込みが大きい人」は全員見分けられた
今回いちばん目を引いたのは、低酸素負荷でグループ分けしたときの結果です。PSGのデータから「高リスク」と分類されたグループについて、Galaxy Watchは初期設定のまま感度100%、特異度100%を記録しました。今回の参加者の中では、リスクの高い人と低い人を1人も取り違えなかったということです。
ただしこの数字は、そのまま鵜呑みにできるものではありません。参加者は、すでに診断済みか、質問票で可能性が高いと判定された人に絞られています。街を歩いている人を無作為に集めた集団ではありません。病気の人が多く含まれる集団で試せば、成績は本来より良く出やすくなります。
研究チーム自身も、この結果を「一般の人でも同じ性能が出る証拠」とは扱っていません。回数を数えるだけでなく、体にとって意味のある負担の大きさで見分けるという方向性に、検討する価値があると示した段階です。
それでも診断の代わりにはならない
研究の位置づけとして、はっきりさせておきたいことがあります。今回の検証は、ウォッチが医師による診断を置き換えられるかを見たものではありません。詳しい検査が必要な人を早い段階で見つけ出す、その入り口として使えるかを見たものです。
ウォッチが出せるのは、あくまで「調べたほうがよさそうだ」という手がかりまでです。睡眠障害には無呼吸以外の種類もありますし、治療方針を決めるのは医師の仕事です。陽性と出たら受診して確定検査を受ける、陰性でも強い症状があるなら受診する。この使い方が前提になります。
もうひとつ、読むときに頭に入れておきたい点があります。この研究にはSamsung Electronicsが資金と研究材料を提供しています。また、収集されたデータはプライバシーや商業上の理由から公開されておらず、判定に使われたアルゴリズムのコードも非公開です。第三者が同じ検証を独立にやり直すことは、現状では簡単ではありません。研究チームも、より幅広い年齢層や、選抜されていない集団での追試が必要だとしています。
ウェアラブルが体の異変に気づくきっかけになった例は、実際に増えています。ジムで心拍数200を示したスマートウォッチが重い冠動脈疾患の発見につながった事例のように、受診の後押しになる場面は確かにあります。入り口としての価値と、診断としての限界。この2つは分けて考えるのが健全です。
この機能が使える国は限られている
最後に、日本の読者として気になる部分を整理しておきます。この検出機能はSamsung Health Monitorというアプリを通じて提供されるもので、どこの国でも同じように使えるわけではありません。
Samsung Japanの公式製品ページを見ると、Galaxy Watch Ultra2のページに注記として「睡眠時無呼吸検知機能は、現在、一部の国でのみ利用できます」と書かれています。日本語の公式ページに、この但し書きが付いています。
その「一部の国」がどこかについては、Samsung Newsroom 日本が2026年3月13日に公開した記事に一覧があります。韓国での提供開始後に米国FDAのDe Novo認証を取得し、78か国以上で利用できるという説明とともに国名が並んでいますが、その中に日本の記載はありません。韓国、台湾、香港、シンガポール、タイ、マレーシア、ベトナムといった近隣は挙がっています。
またSamsung Japanのサポートページ(2026年4月30日更新)でGalaxy Watchの睡眠モニタリングを解説した項目にも、確認できるデータとして睡眠時間、睡眠スコア、睡眠ステージ、睡眠中の血中酸素、いびき検出、睡眠時皮膚温などが並んでいますが、睡眠時無呼吸は出てきません。
ここまでが、2026年8月29日時点で公開情報から確認できることです。Samsungは日本での提供の有無や今後の予定について特にアナウンスしておらず、公表資料だけで断定できる状態ではありません。対応する国と地域は今後増えていく可能性があります。8月7日に国内発売されたGalaxy Watch9やGalaxy Watch Ultra2をお使いの方は、Samsung Healthアプリの睡眠まわりを開いて、手元で項目が出るかどうかを確かめてみるのが早いと思います。
一般論として、健康機能の提供範囲が国ごとに違うのは、医療機器に関わる機能に各国の承認が必要になるためです。日本では薬機法に基づく承認が必要で、この分野は同じ製品でも国によって使える機能が変わります。ハードウェアのセンサーが同じでも、機能が開くかどうかは別の話、という前提で見ておくとよさそうです。
なお、機能の仕組みそのものは公開されています。Galaxy WatchのBioActiveセンサーで睡眠中の血中酸素濃度を測り、呼吸が止まっているか浅くなっている状態を検出してAHIを推定する、という流れです。使用条件は「10日間のうち2晩、4時間以上の睡眠を計測する」こと。対象はGalaxy Watch4シリーズ以降で、22歳以上かつ睡眠時無呼吸の診断を受けていない人とされています。
まとめ|数字は立派、使えるかどうかは手元で確認を
今回の研究が示したのは、消費者向けのスマートウォッチが、睡眠検査室の設備と突き合わせても通用する精度で中等度以上の睡眠時無呼吸を見分けられる、ということです。特に酸素の落ち込みが大きい人を拾い出す力は、選ばれた152人の中では完璧でした。これは睡眠医療へのアクセスが限られている地域にとって、大きな意味を持ちます。
一方で、この機能が使える国は限られていて、日本での扱いははっきり公表されていません。手元のGalaxy Watchで項目が出るかどうかは、実際にSamsung Healthを開いて確かめてみてください。
いずれにしても、睡眠の状態が気になるなら、まずは睡眠時間や睡眠段階の記録から入るのが現実的です。Galaxy Watchのシリーズごとの違いはブランドガイドにまとめていますので、どのモデルで何ができるかはそちらで確認できます。そして、いびきを指摘されている、日中に強い眠気があるといった心当たりがあるなら、ウォッチの結果を待つより先に医療機関で相談するのが確実です。この研究が示しているのも、あくまで「受診への入り口」としての価値でした。
Source: Bioengineer/ClinicalTrials.gov NCT06603441/Samsung Newsroom 日本 ※記事中の画像はイメージです(出所:Unsplash)
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