2024年8月、北海道・知床の羅臼岳で、下山中の登山者がヒグマに襲われて亡くなるという痛ましい事故が起きました。
朝日新聞の報道では、被害者が装着していたGPS機能付きスマートウォッチに、最期の行動記録が残されていたことが伝えられています。
GPSの軌跡には、登山道から斜面下へ外れた移動や、やぶの中での不規則な動き、途中で途絶えた心拍データなどが記録されていました。これらの情報は、事故後に状況を把握するための重要な手がかりとなりました。
この出来事は、登山者個人の装備や判断を評価するための材料ではなく、自然環境におけるリスクと、私たちが取り得る「備え」について考えるきっかけとして受け止めるべきものです。
ヒグマ被害は「個人の問題」ではなく、環境とリスクの問題
知床は世界有数のヒグマ高密度生息地であり、ヒグマの出没自体が想定外ではありません。今回の事故も、登山者の行動だけで単純に防げたものではなく、登山道の管理、注意喚起、行政判断など、複合的な要因が重なった結果といえます。
その前提に立ったうえで、本記事では「誰が悪かったか」を論じるのではなく、近年注目されている「クマ対策・山岳事故対策としてのスマートウォッチの役割」に焦点を当てます。
スマートウォッチは「記録する道具」から「安全装備」へ
従来、登山やアウトドアにおけるスマートウォッチは、
・GPSによるルート記録
・標高や移動距離の計測
・心拍数や運動ログの保存
といった行動を記録するツールとして使われることが中心でした。
しかし近年は、これに加えて事故や異常が起きた際に「助けを呼ぶ」「異常を伝える」ための機能が強化され、位置づけが変わりつつあります。
クマ対策・山岳事故の文脈で注目されるApple Watchの機能

転倒検出・衝突事故検出(Apple Watch)
一部のApple Watchには、激しい転倒や強い衝撃を検知した際に、緊急通報や通知を行う機能が搭載されています。
・本人が操作できない状況でも異常を検知
・現在地を含む位置情報の共有
・家族や緊急連絡先への自動通知
登山では、転落や滑落など、突然の衝撃を伴う事故が起こり得ます。そうした環境において、「声を出せない状況でも異常を伝えられる」仕組みは、Apple Watchが備える安全機能の中でも重要な位置づけにあります。
緊急SOSと位置情報共有(Apple Watch)
Apple Watchには、ワンアクションで緊急通報を行い、位置情報を共有できる「緊急SOS」機能が用意されています。
・緊急通報サービスへの発信
・現在地の送信
・家族や知人への通知
山中では、救助要請の「早さ」と「正確な位置情報」が重要になります。Apple Watchのように、腕元の操作だけで助けを呼べる手段を持つことは、リスク対策の一部と考えられます。
サイレン機能による存在の可視化(Apple Watch Ultra)
Apple Watch Ultraシリーズには、大音量のサイレンを鳴らして周囲に異常を知らせる機能が搭載されています。
ヒグマに対する直接的な効果を断定することはできませんが、人の存在を周囲に知らせる、捜索時の手がかりを増やすといった点で意味を持つ可能性があります。
衛星通信による連絡手段(Apple Watch Ultra 3)
Apple Watch Ultra 3では、携帯電話の電波が届かない山中でも、衛星経由でメッセージを送信できる機能が用意されています。
・圏外エリアでの緊急連絡
・位置情報の共有
・家族や知人への状況連絡
これにより、「電波がない=完全に孤立」という状況を避けられる可能性が広がっています。
他社スマートウォッチの対応状況について
なお、ここまで紹介してきた機能は、主にApple Watchに搭載されている安全機能を中心に整理したものです。
一方で、Google Pixel WatchやSamsung Galaxy Watchの一部モデルにも、転倒検出や衝突検出といった安全機能が搭載されており、同様の思想で設計されたスマートウォッチが増えつつあります。
Garminでも衛星通信の機能は今年からスタートしています。
登山やアウトドア用途では、ブランドにかかわらず、「万が一の際に何ができるか」という観点で機能を確認することが重要になっています。
スマートウォッチはクマ対策の「備えの一部」にはなる
スマートウォッチがあれば、すべての事故や被害を防げるわけではありません。今回の知床での事故も、単一の装備で結果が変わるようなものではありません。
それでも、
・異常を自動で検知する
・助けを呼ぶ手段を複数持つ
・位置情報を即座に共有できる
こうした「選択肢を増やす備え」として、スマートウォッチが果たす役割は確実に広がっています。
クマ鈴やスプレー、行動計画と同様に、スマートウォッチもまた、現代の登山・アウトドアにおける安全装備の一要素として考えられる時代になりつつあります。
Source:
朝日新聞
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