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東京理科大学の四反田功氏らの研究グループが、汗に含まれるナトリウムとカリウムを腕時計型のセンサーで測り、無線で送り続ける仕組みを発表しました。論文は米国化学会の査読誌『ACS Omega』に2026年9月21日付で掲載されています。実際の建設現場で作業員1人が約2時間45分着けて働き、そのあいだのデータをリアルタイムで集められることを確かめました。
汗の成分を測るウェアラブルは、スポーツ選手向けのGx Sweat Patchのように使われ始めています。汗に出てくるナトリウムやカリウムは、体の水分の状態や暑い環境での体調管理に関わる情報になりうるとされ、研究が進んでいる分野です。
ただし論文は、現場で得た値を「汗の濃度として確かめた数字ではない」とはっきり書いています。どんな仕組みで何が測れたのか、どこから先がまだなのかを順に見ていきます。
汗のナトリウムとカリウムを腕時計で測る仕組み

センサーは、細長いフィルムに電気を通すインクを重ねて刷る「スクリーン印刷」で作られています。印刷で作れるため安く量産しやすく、使い捨てにもしやすいのが特徴です。
フィルムの先には測るための電極が2つあり、1つにはナトリウムだけに反応する膜、もう1つにはカリウムだけに反応する膜が載っています。汗が触れると、汗に含まれるイオンの量に応じて電極に生じる電圧が変わり、その電圧から濃度を読み取ります。
センサーと肌のあいだには布を貼り、肌に直接触れないようにしています。布の先には吸水性の高い繊維のシートを付け、測る部分に溜まった汗を吸い出して新しい汗と入れ替わるようにしました。センサーはコネクターで腕時計型の無線送信機につながり、ケースの下に収めて手首に着けます。
着けてすぐ測り始められるよう基準の電極を作り替えた

電圧から濃度を読むには、汗の成分に左右されない「基準の電極(参照電極)」も必要です。これまで印刷で作る参照電極は、液に浸してから電圧が落ち着くまで時間がかかり、使う前に慣らす手間がありました。論文の比較では、従来の作り方の電極は落ち着くまでに1,000秒以上かかっています。
今回は、四反田氏らが2019年に発表した「液絡」と呼ばれる構造を組み込みました。塩化カリウムを含む層の上に、水を通しやすいシリカゲル入りの層を重ねたもので、長い慣らしをしなくても測り始められます。
10mMの食塩水に浸して3,000秒(50分)測ったところ、市販の参照電極との差は約6mV動きました。1時間あたり約7mVで、論文は「小さいが無視できる大きさではない」としています。液絡の層を省いた電極を作って比べると、外側の液の濃さによって電圧が約80mVも変わりました。論文は、液絡の層が電圧のぶれを抑える役目を果たしていることを裏づける結果だとしています。
感度は理論上の上限の約8割
ナトリウムとカリウムのセンサーは、それぞれ濃度が10倍になると電圧が48.3mVと46.4mV変わりました。理論上の値は25℃で59.2mVなので、その約82%と約78%にあたります。1mMから1,000mMまでの範囲で、濃度と電圧はほぼ一直線の関係でした。
| ナトリウムの感度 | 濃度10倍あたり48.3mV(理論値の約82%) |
|---|---|
| カリウムの感度 | 濃度10倍あたり46.4mV(理論値の約78%) |
| 測れた範囲 | 1〜1,000mMで直線的に変化 |
| 参照電極のずれ | 3,000秒で約6mV(1時間あたり約7mV) |
| 従来型の参照電極 | 落ち着くまで1,000秒以上 |
| 試作した数 | 各センサー3本ずつ |
反応の選び分けも調べています。カリウム用のセンサーはナトリウムにほとんど反応しませんでした。一方、ナトリウム用のセンサーはカリウムにもある程度反応しています。論文の見積もりでは、カリウムの影響はカリウム濃度の約2%分のナトリウムに相当し、カリウムがナトリウムより十分少なければ、ずれは小さいとしています。
1秒に10回測って920MHz帯の無線で送る

腕時計型の送信機は、研究グループが基板から設計したものです。小型のマイコンが電極の電圧を1秒に10回読み取り、本体に挿したmicroSDカードに記録しながら、およそ5秒ごとに無線でパソコン側へ送ります。
無線は920MHz帯を使い、現場のあちこちに置いた中継器を経由してデータを届ける「メッシュネットワーク」を組みました。障害物の多い建設現場で作業員が動き回っても、どこかの中継器を通ってパソコンまで届く仕組みです。
建設現場で作業員1人が約2時間45分着けて働いた

着用試験は、三和建設が管理する稼働中の建設現場で行われました。ボランティアの作業員1人が腕時計型のセンサーを着け、休憩や水分補給、食事も含めていつもどおりの作業を約2時間45分続けています。試験は東京理科大学の倫理審査を経て実施されました。
その結果、作業を止めることなく、ナトリウムとカリウムに反応した信号をリアルタイムで集めることができました。最初の約2,000秒(33分ほど)は値が安定しませんでした。論文は、測る部分がまだ汗で十分に濡れていなかった可能性を挙げていますが、汗をかき始めた時刻は別に確かめていません。
表示された濃度は汗の濃度として確かめた値ではない
論文は、この研究で分かったことと分かっていないことを丁寧に分けています。現場で得た値は、食塩水などで作った換算式で電圧を濃度に直した「見かけの濃度」で、次の点はまだ確かめられていません。
・汗を別に採って分析し、センサーの値と比べること
・ほかの確立した分析方法と比べること
・現場で測る前と後に、センサーを校正し直すこと
・いろいろなイオンが混ざった汗に近い液での精度
・2時間45分を超える長い時間のずれ(参照電極のずれは3,000秒までしか測っていない)
・布と吸水シートを通したときに、汗の濃度がそのまま測れているか
現場のデータで時間とともに値が上下した部分についても、汗の成分が変わったのか、電極のずれによるものなのかは切り分けられないとしています。試験した作業員は1人で、使えたデータは1回分です。汗のナトリウムやカリウムから体の水分の状態を読み取れるかどうかは、汗の量や水分補給を管理した試験で確かめる必要があり、今後の課題とされています。
まとめ
東京理科大学のグループは、印刷で作るナトリウム・カリウムのセンサーと、着けてすぐ測り始められる参照電極、汗を入れ替える布と吸水シート、腕時計型の無線送信機を1つにまとめ、実際の建設現場で作業を止めずにデータを集められることを示しました。論文自身が強調しているのは、新しい材料ではなく、これらを組み合わせて現場で動かした点です。
一方で、表示された値を汗の濃度として信頼できるところまでは、まだ確かめられていません。暑い現場で働く人の体調管理に使えるかどうかは、汗の採取と組み合わせた検証が進んでからの話になります。
Source:Shitanda I, Fujisawa T, Loew N, Shirai R, Imade Y, Okamoto Y, Yanagita S, Watanabe H, Itagaki M. (2026) Real-Time Monitoring with a Wristwatch-Type Sodium- and Potassium-Ion Sensor Using a Screen-Printed Liquid-Junction Reference Electrode. ACS Omega 11(39): 59011–59020(CC BY 4.0)
画像:同論文のFigure 1b・1d・6b・7b(CC BY 4.0。切り抜き・回転・余白の追加は編集部)
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