喘息の発作は、本人にも周囲にも前触れが分かりにくく、いざ起きると呼吸が苦しくなり生活の質を大きく下げてしまいます。海外のオークランド大学(Waipapa Taumata Rau, University of Auckland)の発表によると、その喘息の発作を「起きる前に予測してくれるスマートウォッチ」の研究が、ニュージーランドで本格的な臨床試験段階に入ろうとしているそうです。火事になる前に作動する煙感知器のように、発作の兆候を早めに知らせる仕組みを目指したもので、過去50年間で初めての画期的な進歩になり得ると研究チームは話しています。
Source:Smartwatch-based asthma alert set to revolutionise care|The University of Auckland
過去50年で初めての進歩を目指す「喘息予測スマートウォッチ」
研究を率いているのは、オークランド大学医学・健康科学部の薬学部長であるエイミー・チャン准教授(Associate Professor Amy Chan)です。発表は、ニュージーランドで5月4日から9日まで実施される「アズマ・ウィーク(Asthma Week)」に合わせて行われました。
ニュージーランドでは喘息の影響を受けている人が多く、子どもの7人に1人、大人の8人に1人が喘息を抱えていると言われています。中でもマオリやパシフィカ(太平洋諸島系)の人々は、ほかの住民に比べて2〜3倍も入院リスクが高いとされており、今回の研究はそうした人々の参加を強く意識して進められています。
研究チームのチャン准教授は「喘息ケアはこれまで“発作が起きてから対応する”という後手のものでした。今回の取り組みは、家の煙感知器のような存在を目指しています。火事になってから鳴るのではなく、火事になる前に鳴ってほしい、というイメージです」と語っています。

研究では、喘息になりやすい傾向があるマオリ・パシフィカ(太平洋諸島系)の人々の参加を重視してきた、と研究主導者のオークランド大学薬学部長エイミー・チャン准教授は語っている
200人以上のデータから「発作の兆候」をAIアルゴリズムで予測
研究の第一段階では、200人以上の喘息患者が日常的にスマートウォッチを装着し、自分の症状や発作の発生状況を記録しました。集まったデータをもとに、研究チームは「今後7日間で発作が起きる可能性」を割り出すアルゴリズムを開発しています。
このアルゴリズムは、自己申告の症状やピークフロー(呼吸の勢いを測る一般的な指標)といった従来の評価方法よりも高い精度で発作を予測できたと報告されています。マオリやパシフィカの人々のデータを意図的に手厚く取り込んだことで、これまで見過ごされがちだった集団のリスクにも対応しやすい設計になっている点もポイントです。
仕組みとしては、スマートウォッチが心拍などの体のシグナルを継続的に拾い、専用アプリにデータが送られます。リスクが高まったときにアプリが通知を出し、ユーザーに「主治医からもらっている喘息アクションプランを見直して、対処を始めるタイミングですよ」と促す形です。
250人規模のランダム化比較試験で「リスク通知の効果」を検証
研究チームは現在、250人の喘息患者を対象に、12カ月間にわたるランダム化比較試験(RCT)の準備を進めています。RCTは医療研究では「ゴールドスタンダード」とされる手法で、結果の信頼性が高い検証方法です。
試験では、参加者全員が通常の喘息ケアを受けます。その上で、参加者の半数だけがスマートウォッチのデータをもとに算出された「発作リスクスコア」を確認できるグループに割り当てられ、もう半数は従来通りのケアのみを受けるグループになります。
チャン准教授は「両グループの違いは、自分のリスクに関する情報にアクセスできるかどうか、その一点だけです。だからこそ“秘伝のたれ”や“魔法のひと振り”にあたるリスクスコアそのものの価値を、本当の意味で検証できると考えています」と説明しています。
この研究は、オークランド医学研究財団(Auckland Medical Research Foundation)と Return on Science から一部資金提供を受けて進められており、研究チームはさらなる資金獲得も目指しているとのことです。
マオリ・パシフィカの人々向けに「個別化喘息治療」も並行研究
同じチームが進めるもう一つの研究では、マオリやパシフィカの人々の喘息治療を、よりその人に合った形に変えていくことが目指されています。こちらの研究はニュージーランドのHealth Research Councilから140万NZドルの助成を受け、National Hauora Coalitionと連携して実施されます。
具体的には、喘息発作の後にかかりつけ医を受診したタイミングで、指先からの血液検査と呼気検査を行うというものです。喘息の発作の中には、好酸球(こうさんきゅう)と呼ばれる免疫細胞が関わっているケースがあり、こうしたタイプはステロイドがよく効くことが知られています。一方、ウイルス感染など別の原因で起きている発作は、ステロイドが必ずしも適切とは限りません。
チャン准教授は「マオリやパシフィカの人々は喘息の症状が重くなりやすく、結果としてステロイドを多く処方されてきました。しかし、これらの集団では糖尿病や脳卒中、心血管疾患、肥満や気分障害などのリスクももともと高く、ステロイドの累積でさらに悪化することが分かっています。私たちが検証しているのは、画一的なステロイド治療ではなく、発作のタイプに応じて治療を個別化できないか、という点です」と話しています。
現在の指針では、コルチコステロイドの累積量は生涯で1グラムを超えないことが望ましいとされています。しかし研究チームの調査では、ニュージーランドの喘息患者のなかには、1年間でその量を処方されてしまう人も少なくないとのことです。この共同研究は、医学・健康科学部のテ・クペンガ・ハウオラ・マオリ(Te Kupenga Hauora Māori)に所属するアネカ・アンダーソン准教授(Associate Professor Anneka Anderson)と共同で率いられており、地域の臨床現場で使えるポイントオブケア検査(その場で結果が出る検査)の世界的な先行事例を目指しています。
スマートウォッチで「発作の手前」に気付ける時代へ
これまでスマートウォッチは、心拍数や睡眠、運動量を記録する“健康管理の補助ツール”として使われてきました。今回のニュージーランドの研究は、その役割を一歩進め、「特定の病気の発作を予測し、行動を促す医療補助デバイス」へと位置付け直そうとする試みと言えます。
もちろんRCTの結果が出るまでに時間はかかりますし、実際の医療現場で使えるようになるまでには規制や運用面の整備も必要です。それでも、毎日身に着けているデバイスが「そろそろ発作のリスクが高まっています」と教えてくれる未来は、喘息と長く付き合っている人にとって大きな安心材料になるはずです。Smart Watch Lifeでは、スマートウォッチが医療や健康管理の現場でどのように活用されていくのか、今後も国内外の動向を追いかけていきます。
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