ショートスリーパーの真似は危険|厚労省の目安は成人6時間以上。6時間睡眠を2週間続けた実験では徹夜2晩ぶんの低下

コラム・業界分析

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手首にウェアラブル端末を着けたままベッドで眠っている人。睡眠計測は着けて寝るだけで記録される。

「1日30分しか寝ない」というショートスリーパーの話題が、いまSNSやYouTubeで大きく広がっています。関連する動画や切り抜きが次々に拡散され、それに合わせて「自分も短時間睡眠を試してみる」という人が増えています。7日間のチャレンジとして動画にする人も出てきました。

はじめにお断りしておくと、この記事では、その話題そのものを掘り下げることはしません。誰が実際に何時間眠っているのかは、外から検証できることではないからです。特定の個人について、眠っている・眠っていないを判定するつもりはありません。

また、短い睡眠でも健康に生活している人が実在するのも事実です。これは俗説ではなく、遺伝子レベルで原因が特定されています。その内容も後ほど紹介します。

そのうえで、この記事でお伝えしたいことはひとつだけです。一般の人が睡眠時間を極端に短くすることには、はっきりした危険があります。しかもその危険は、本人が自覚しにくい形で現れます。真似をしようと思った方に、その前に知っておいてほしいことを、厚生労働省の指針と睡眠研究の結果から順に並べます。

厚生労働省の目安は「成人6時間以上」

国が示している基準から確認します。

厚生労働省は2024年2月に健康づくりのための睡眠ガイド2023を公表しました。年代別の推奨は次のとおりです。

対象 睡眠ガイド2023の推奨
成人 個人差はあるが、6時間以上を目安に睡眠時間を確保する
小学生 9〜12時間を参考に確保する
中学生・高校生 8〜10時間を参考に確保する
高齢者 床上時間が8時間以上にならないことを目安にする

成人の目安は6時間以上。ガイドは「個人差はあるが」と前置きしたうえで、この数字を置いています。30分という数字が、この基準からどれだけ離れているかは見てのとおりです。

生まれつき短く眠れる人は実在する。ただし「4〜6時間」です

ここは誤解されやすいところなので、丁寧に書きます。

短い睡眠でも支障が出ない体質の人は、実際に存在します。「家族性自然短時間睡眠(familial natural short sleep)」と呼ばれ、遺伝子レベルで原因が特定されています。

カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)のFu Ying-Hui氏らのチームが2009年に発表した研究では、DEC2という遺伝子に特定の変異を持つ人の平均睡眠時間は6.25時間でした。変異を持たない人は8.06時間だったので、その差は約1.8時間です。

2019年に見つかった2つ目の遺伝子ADRB1では、変異を持つ人は持たない人より1日あたり平均2時間短いという結果でした。ほかにNPSR1GRM1も報告されています。

遺伝子 報告されている睡眠時間
DEC2(BHLHE41) 変異あり 6.25時間 / 変異なし 8.06時間
ADRB1 変異を持たない人より平均2時間短い
NPSR1・GRM1 短時間睡眠との関連が報告されている

UCSFはこの体質を「生涯にわたり毎晩4〜6時間の睡眠で、十分に休めたと感じる」ものと説明しています。つまり、生まれつき短く眠れる人であっても4〜6時間は眠っているということです。

そして、この体質はきわめて稀です。2021年の系統的レビューは、自然短時間睡眠者を対象にした研究が限られている理由として、そもそも該当者が稀であることを挙げています。

まとめると、こうなります。短く眠れる人はいる。でもそれは4〜6時間の話で、30分の根拠にはならない。そしてその体質は訓練で手に入るものではなく、遺伝子で決まっています

いちばん危ないのは「慣れた」と感じてしまうこと

この記事でいちばん伝えたいのは、ここです。

2003年に睡眠専門誌『Sleep』に掲載された、ペンシルベニア大学のVan Dongen氏らによる実験があります。健康な成人の睡眠時間を8時間・6時間・4時間に14日間制限し、認知機能の変化を追跡したものです。

結果は次のとおりでした。

観察されたこと 内容
認知機能 4時間・6時間のグループはすべての課題で成績が低下し、日を追うごとに悪化し続けた
低下の程度 6時間以下では、2晩連続で徹夜したのと同水準の成績まで落ちた
本人の自覚 眠気の自己評価は最初に上がったあとほとんど増えず、6時間と4時間の差もつかなかった

論文は、被験者が自分の能力が落ち続けていることにほとんど気づいていなかったと結論づけています。そして、だからこそ慢性的な睡眠不足の影響は「大したことない」と思われがちなのだ、と指摘しています。

短時間睡眠を続けているうちに「慣れてきた」と感じる人は多いはずです。しかしこの実験が示しているのは、慣れたのではなく、落ちていることに気づけなくなっているという可能性です。

自分の感覚が当てにならない、というのがこの話のいちばん厄介なところです。「平気だった」という体験談は、平気だったことの証明にはなりません。

削っているのは「時間」だけではない

睡眠時間を削ると、その分だけ何かが起きなくなります。

厚生労働省の健康用語辞典は、睡眠に関わる体の仕組みをこう定義しています。メラトニンは日々の睡眠や体温、ホルモン分泌といった概日リズムの調節に関わるホルモンで、概日リズム睡眠障害は体内時計を24時間周期に同調させられないために起こる睡眠の障害とされています。

また、睡眠が足りないことで日中に強い眠気が出る状態には睡眠不足症候群という名前が付いています。眠くならないから大丈夫、という自己判断が通らない領域だということです。

削られるのは時間そのものではなく、その時間に体が行っている作業のほうです。

それでも自分の睡眠を知りたいなら

ウェアラブルデバイスを手首に着けたまま眠っている人のイメージ

主観が当てにならないなら、記録に頼るという手がある(画像:Unsplash)

最後に、当サイトの専門分野から一言だけ添えます。

Van Dongenの実験が示したのは「自分の感覚が当てにならない」ということでした。だとすれば、感覚の外側に記録を置いておくのは理にかなっています。スマートウォッチやスマートリングは、まさにそれをやる道具です。

これは、実際に毎日測っている側の実感でもあります。スマートウォッチやスマートリングを着けて記録を続けていると、睡眠時間が短かった日は、各種の健康データがはっきり数字として下がります。回復度や準備度といったスコア、安静時心拍、心拍変動。そういった指標が揃って前日より悪い側に振れます。本人は「そこまで眠くない」と思っている日でも、数字のほうは正直に反応しているわけです。

当サイトでも、スコアが25まで落ちた日に何が起きていたのかを、心拍変動と睡眠スコアで追いかけたことがあります

実際、厚生労働省の睡眠ガイド2023も、自己申告の睡眠時間について「床上時間を反映しやすく、やや不正確である可能性がある」と書いています。寝床にいた時間と実際に眠っていた時間を切り分けられる点が、こうした機器を使う意味です

ただし過信は禁物です。ウェアラブルが出す数字には、実測値と推定値が混ざっています。睡眠ステージの判定も脳波ではなく推定なので、分単位で真に受けるものではありません。

見るべきは1晩の点数ではなく、週単位の平均睡眠時間です。それが6時間を下回り続けているなら、それは気分の問題ではなく、量が足りていないという話になります。

まとめ

誰かが本当に30分睡眠なのかどうかは、この記事では判断しません。分かっているのは次の3つです。

厚生労働省は成人に6時間以上を目安として示しています。生まれつき短く眠れる体質は実在しますが、それは4〜6時間の話で、遺伝子で決まっており、訓練では手に入りません。そして6時間以下の睡眠を2週間続けると、2晩徹夜したのと同じ水準まで認知機能が落ちるのに、本人はそれにほとんど気づきません。

試してみようと思った人に伝えたいのは、「平気だった」という感覚ほど当てにならないものはないということです。それを確かめる手段としてなら、睡眠を記録する機器にも意味があります。

Source: 厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド2023」Van Dongen HP et al., Sleep. 2003;26(2):117-26UCSF「After 10-Year Search, Scientists Find Second ‘Short Sleep’ Gene」A Systematic Review of Natural Short Sleepers’ Genes(PMC)/画像出典:Unsplash(フリー素材)

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