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「なんだか体がだるい」と感じる前に、スマートウォッチが体の異変を教えてくれる——そんな未来が研究で現実味を帯びています。スタンフォード大学の研究チームは、スマートウォッチのデータから、本人が症状を自覚する前に感染の兆候を捉えられる可能性を示しました。新型コロナウイルスの流行期に大きな注目を集めた研究です。この記事では、その内容と仕組み、そして「できること・できないこと」を、誇張せずに紹介します。
普段のデータからの“ズレ”で異変を捉える
この研究は、スタンフォード大学のMichael Snyder教授らのチームが行い、2020年に医学誌「Nature Biomedical Engineering」に発表されました。スマートウォッチは心拍数や歩数、睡眠などを24時間休みなく記録しています。チームが着目したのは、こうした普段のデータからの“ズレ”です。人は感染すると、本人が気づくよりも早く、体の中で生理的な変化が始まります。免疫システムが反応し、体温や心拍に微妙な変化が表れるのです。その小さな変化を、いつものデータと比べることで捉えられるのではないか——というのが研究の出発点でした。
従来、体調の異変は「熱を測る」「だるさを感じる」といった形で、ある程度症状が出てから気づくのが普通でした。しかしウェアラブルは、寝ている間も含めて連続的にデータを取り続けます。だからこそ、本人がまだ何も感じていない段階の“予兆”を捉えられる可能性があるわけです。これは、ときどき測る体温計にはできない、常時計測ならではの強みです。
カギは「安静時心拍数」の上昇
最も有力な手がかりとされたのが、安静時心拍数(じっとしているときの心拍数)の上昇です。感染が始まると体が戦うモードに入り、安静にしていても心拍がいつもより高くなる傾向があります。チームはこの変化を監視し、度合いに応じて「黄色」「赤色」の段階的なアラートをリアルタイムに知らせる仕組みも試しました。
手がかりは心拍だけではありません。感染者は1日の歩数が平均で約1,440歩少なくなり、睡眠時間が平均で約30分長くなるといった変化も見られました。体が「活動を控えて休もう」とするサインが、データにそのまま表れていたわけです。複数の指標を組み合わせることで、より確からしく「いつもと違う」を捉えられるようになります。
感染者の約8割を検知、最大10日前のケースも
研究では、新型コロナウイルス(COVID-19)に感染した32人のうち26人(約81%)で、スマートウォッチのデータに異変が検出されました。検出のタイミングはさまざまですが、中には症状が出る最大10日前に兆候が現れたケースもあったといいます。チーム全体としては、症状の前後を含めて約63%のケースで感染の兆候を捉えられたと報告しています。
症状が出る前、あるいは無症状の段階でこうした変化を捉えられれば、意味は大きくなります。早めに検査を受けたり、念のため人との接触を控えたりする判断につながり、結果として感染症の拡大を抑える助けにもなり得ます。一人ひとりの「いつもと違う」への気づきが、社会全体の備えにつながる——そんな可能性を示した研究でもあります。
限界を正しく知る——風邪との区別はできない
便利に見える一方で、限界もはっきりしています。最も重要なのは、この方法は「何かの異変」は捉えられても、それがCOVID-19なのか、ほかの感染症なのか、別の要因なのかを区別することはできないという点です。安静時心拍数は、高地への滞在や月経周期、特定の薬、激しい運動の翌日、飲酒、強いストレスなどでも変動します。そのため誤検知(実際には感染していないのにアラートが出る)も起こり得ます。アラートが出るたびに不安になりすぎるのも考えものです。あくまで「いつもと違うかも」という気づきを与えるものであり、検査や診断の代わりにはなりません。
それでも、症状が出る前や軽いうちに「体が休息を求めている」と気づければ、早めに休んだり受診を検討したりする材料になります。活用のコツは、日頃から自分の安静時心拍数の“平常値”を把握しておくこと。普段が何拍くらいなのかを知っていれば、「今日はやけに高いな」という変化に気づきやすくなります。スマートウォッチを「体調の変化に気づくきっかけ」として活用するのが、現実的で賢い使い方と言えるでしょう。
まとめ
スタンフォード大学の研究は、スマートウォッチが症状の出る前に感染の兆候を捉えられる可能性を示しました。感染者の約8割で異変を検出し、最大10日前のケースもあった一方、病気の種類までは区別できないという限界もあります。診断の道具ではなく「いつもと違う」に気づくためのツールとして、自分の平常値を知りながら上手に付き合っていきましょう。
Source: Mishra et al., Nature Biomedical Engineering (2020)
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