夜中に目が覚めるのは本当に「睡眠の失敗」なのか?人類の睡眠史から見えてきた意外な事実

犬と一緒に就寝する人のイメージ画像。Apple Watchは写っていない。

夜中の2時や3時にふと目が覚めてしまい、「睡眠が浅い」「睡眠スコアが下がってしまった」と不安になった経験はありませんか。

実はその感覚自体が、現代特有の思い込みかもしれません。

ベッドで眠る人のイメージ。夜中の中途覚醒は歴史的には珍しいことではなかった

2025年12月、キール大学の認知心理学講師で環境時間認知ラボ(Environmental Temporal Cognition Lab)ディレクターのダレン・ローズ氏が、「人類はもともと“二分割睡眠”をしていた」という視点から現代人の睡眠と時間感覚を読み解く記事を発表しました。The Conversationに寄稿され、EL PAÍS Englishにも転載されたものです。

本記事では、まずその内容を分かりやすく整理し、後半でスマートウォッチによる睡眠計測や睡眠スコアを、どう受け止めるべきかを考えていきます。

「8時間連続睡眠は当たり前ではない」という事実

この記事が指摘している最大のポイントは、連続8時間睡眠は、人類の長い歴史の中では例外的という点です。

産業革命以前、多くの地域で人々は次のような眠り方をしていました。

・日が暮れてから眠る「第一の眠り(first sleep)」
・真夜中に1時間以上つづく覚醒の時間
・夜明けまで眠る「第二の眠り(second sleep)」

この真夜中の時間は、決して「不眠」ではありませんでした。火の番をしたり、家畜の様子を見に行ったり、祈ったり、さっき見た夢について考えたり。手紙や日記には、この静かな時間に読書や書きもの、家族や隣人との会話を楽しんだ記録が残っています。夫婦がこの時間を親密な時間にあてることも多かったといいます。ヨーロッパだけでなく、アフリカやアジアの記録にも同じ習慣が見られます。

古い文学作品にも痕跡があります。古代ギリシャの詩人ホメロスやローマの詩人ウェルギリウスの作品には「第一の眠りが終わる時刻」という表現が登場し、二分割睡眠が説明不要なほど当たり前だったことがうかがえます。

歴史の話ではなく、いまの体でも起こる

「昔の人の話でしょう」と思うかもしれません。ところが、これは現代人の体にも残っている反応です。

冬の長い夜を再現し、暗く、時計も夜の照明もない環境で数週間過ごしてもらう睡眠実験では、参加者の多くが自然と二分割睡眠に移行し、その間に穏やかな覚醒の時間が生まれることが1990年代の研究で報告されています。

さらに2017年には、電気が通っていないマダガスカルの農村を対象にした調査で、住民の多くがいまも真夜中ごろに起きる二分割睡眠を続けていることが確認されました。つまり二分割睡眠は失われた古い習慣ではなく、人工の光がない条件でよみがえる眠り方だということです。

夜中に目が覚める自分を「壊れている」と感じる必要はありません。条件がそろえば誰にでも起こる、ごく human な反応です。

なぜ私たちは途中で起きる睡眠を「悪いもの」と思うようになったのか

この変化の背景にあるのは人工照明と社会構造の変化です。

1700〜1800年代にかけて、まずオイルランプ、次にガス灯、そして電灯が普及し、夜は「暗くなったら寝る時間」から「まだ使える時間」へと変わりました。日没後すぐ床につく代わりに、人々はランプの下で夜ふかしをするようになります。

生物学的にも影響がありました。夜の強い光は体内時計を後ろにずらし、数時間眠ったあとに自然と目覚める体の傾向を弱めます。就寝前のふつうの室内灯でさえ、睡眠ホルモンであるメラトニンの分泌を抑え、眠りの入り口を遅らせることが分かっています。

そこへ産業革命が重なります。工場の勤務スケジュールは、まとまった一続きの休息を前提としていました。20世紀初頭には「中断のない8時間」という考え方が、何世紀も続いた二度寝るリズムに取って代わったのです。

私たちが中途覚醒を「失敗」と感じるのは、体の異常ではなくここ200年ほどで定着した価値観による部分が大きい、というわけです。

途中で目が覚めること自体は、異常ではない

睡眠の専門家は、短い覚醒は正常に起こると指摘しています。睡眠段階の切り替わり、とくに鮮明な夢を見やすいレム睡眠の前後では、目が覚めやすくなります。

大切なのは、目が覚めたこと自体ではなくそのあとどう反応するかです。問題になりやすいのは次のような状態です。

・目が覚めたこと自体に強い不安を感じる
・時計を見て、あと何時間眠れるかを計算し続ける
・「またスコアが下がる」と考えてしまう

いずれもストレスを高め、かえって眠りを遠ざけます。スコアを気にしすぎることで睡眠が悪化する現象には「オルソソムニア」という名前もついています。

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夜中に目が覚めたら、今夜からできること

不眠に対する認知行動療法(CBT-I)では、眠れないまま床にとどまらないことが勧められています。具体的には次のような手順です。

・20分ほど眠れないと感じたら、いったん寝床を出る
・薄暗い照明のもとで、読書のような静かなことをする
・眠気が戻ってきたら床に戻る

あわせて睡眠の専門家がすすめているのが、時計を隠してしまうことです。眠れないときに時間を測るのをやめる、という発想です。スマートウォッチをつけたまま眠る人なら、夜中に画面を見ない、通知で光らせない、という工夫がこれにあたります。

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暗い場所では、時間は長く感じられる

光は「睡眠」だけでなく時間の感じ方にも影響します。

ローズ氏のラボでは、英国とスウェーデンの風景を条件をそろえて360度VRで見せ、2分間の映像がどれくらいの長さに感じられるかを調べました。結果は明快で、夕方や暗いシーンのほうが、同じ2分でも長く感じられたのです。しかもその傾向は、気分が落ち込んでいると答えた人ほど強く出ました。

夜中に目が覚めたとき、時間がやけに長く感じられ、不安が増していく——あの感覚には、こうした裏づけがあります。実際には10分ほどしか経っていないのに、1時間眠れなかったように思えるのは、気のせいではありません。

スマートウォッチ時代に意識したいのは、次の3つです。

・朝起きたらできるだけ自然光を浴びる
・夜は白色や青白い照明を避け、暖色系を使う
・夜中に目が覚めても、時計やスコアを確認しない

とくに朝の光は青色成分を多く含み、体内時計の調整に効きます。睡眠スコアを上げたいなら、夜の対策よりも朝の行動のほうが効果的です。

ただし「二分割睡眠に戻そう」という話ではない

ここまで読んで「では自分も夜中に起きる生活にすべきか」と考えた方もいるかもしれませんが、この話の主旨はそこにはありません。

紹介されているのは、あくまで人工の光がない環境で人類が長く続けてきた眠り方であって、通勤や通学の時間が決まっている現代生活にそのまま持ち込めるものではありません。眠れない状態が続く、日中に強い眠気が出る、いびきや呼吸の乱れを指摘された、といった場合は自己判断せず医療機関に相談してください。

この知識が役に立つのは、「夜中に目が覚めた自分」を責めなくてよくなるという一点です。

まとめ:睡眠スコアは「評価」ではなく「理解」のための指標

・人類は長い間、途中で目覚める睡眠をしてきた
・暗い環境の実験でも、電気のない地域でも、二分割睡眠は現れる
・連続8時間睡眠は、ここ200年ほどで定着した比較的新しい価値観
・短い中途覚醒そのものは正常。問題になるのは、そのあとの不安と時間の意識
・時間の感じ方は暗さと気分に左右される

スマートウォッチの睡眠計測は、自分を採点するためのものではありません。数値が示しているのは優劣ではなく、自分のリズムの輪郭です。

実際、睡眠スコアの読み方には目安があります。数値の意味を知っておくと、1日の上下に振り回されにくくなります。

スマートウォッチの睡眠データはどう読む? 厚生労働省「睡眠ガイド2023」と照らし合わせる

自分のリズムを理解し、整えるためのヒントとして、睡眠データと上手につきあっていきたいところです。夜中に目が覚めたら、「ああ、第一の眠りが終わったな」くらいに思っておく。それだけで、次の眠りは案外すんなり訪れるかもしれません。

Source: EL PAÍS English/初出 The Conversation

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