シンガポール国立大学病院、入院患者のバイタル監視にスマートウォッチを導入|異常を最大2時間早く検知、1年で対象患者の1割へ【海外ニュース】

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グレー背景に並べたHuawei系の丸型スマートウォッチ2台のアプリ画面

シンガポールの国立大学病院(National University Hospital/NUH)が、入院患者のバイタルサイン(生体情報)をスマートウォッチで連続的にモニタリングする取り組みを始めました。事前に実施したパイロットで、通常の手動観察よりも最大2時間早く体調の変化を捉えられることが確認できたためです。ウェアラブルが「入院中の見守り」に本格的に使われ始めた事例として、日本の医療現場にも参考になりそうです。

1か月のパイロットで手応え

今回の取り組みは、いきなり本格導入したものではなく、6月まで約1か月かけて行ったパイロット(試験運用)の結果を踏まえたものです。

・対象:短期滞在の外科病棟に入院する術後患者
・実施:NUHの外科(Department of Surgery)が主導
・協力:ヨンルーリン医学大学院(NUS Medicine)の多職種チーム
・期間:2026年6月に終了した約1か月間

NUHは、ウェアラブルによるモニタリングが「術後の通常ケアを安全に補完しつつ、体調の変化の兆しを臨床医がより早く把握できる」ことを、このパイロットで確認できたとしています。

何を測り、どう使うのか

使われたのは、シンガポールの保健科学庁(Health Sciences Authority/HSA)に承認された市販のスマートウォッチです。特別な医療機器を新たに開発したわけではなく、入手できるデバイスを臨床の枠組みに組み込んだ点がポイントになります。

計測するのは、血圧・脈拍・血中酸素飽和度(SpO2)の3つ。デバイスが取得したデータは、看護チームが使うスマートフォンのアプリへ送られます。看護師は1時間ごと、あるいは4時間ごとに行う定時のベッドサイド観察の際に、そのデータを確認するという流れです。

つまりスマートウォッチが看護師の代わりに判断するのではなく、看護師の巡回の“合間”を埋めて、見えていなかった時間帯の変化を拾う役割を担っています。血中酸素の測定については、こちらの記事でも仕組みを解説しています。

Apple Watchやスマートウォッチでの血中酸素濃度(SpO₂)測定を徹底解説

異常を「最大2時間早く」検知

パイロットで示された最大の成果が、異常の早期発見です。通常の看護観察で気づくよりも最大2時間早く異常な数値が把握され、臨床のエスカレーション手順(医師への報告や確認)につながりました。NUHによれば、この間に見逃された重大な臨床イベントはなかったとしています。

患者側のメリットもありました。とくに夜間の入院中、モニタリングによる中断が減ったといいます。「従来の有線モニターをウェアラブルに置き換えることで、患者は付属物が少なく快適に動けるようになり、回復期の早期離床(早く体を動かすこと)を後押しします」と、NUHの看護師長リム・プーイシー(Lim Pooi See)氏は述べています。

あくまで「臨床判断支援」のツール

NUHがこのパイロットで重視したのは、看護業務のなかでも頻度が高く時間のかかるバイタル測定を、スマートウォッチで安全に置き換えられるかどうかの、初期段階での臨床的な実現性と安全性の検証でした。

NUH外科のアソシエイトコンサルタント、リム・ティエンジー(Lim Tian Zhi)医師は本件について、スマートウォッチは自律的に監視するシステムではなく、「臨床判断支援システム」として設計されていると説明します。

「ウェアラブルが検知した異常値は、エスカレーションの前に必ず病院の標準的なベッドサイド機器で確認しました。すべての臨床判断は、これまでどおり既存の病院プロトコルに従っています」(リム医師)

ウェアラブルの数値だけで動くのではなく、あくまで“最初に気づくきっかけ”として使い、確定は従来機器で行う——この二段構えが安全性の担保になっています。心拍の異常検知をきっかけに早期発見につながる考え方は、他国でも報告されています。

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1年で入院患者の1割へ、Epic連携で記録も自動化

パイロットを受けてNUHは、今後1年かけて、適応可能な入院患者の最大1割(10%)にスマートウォッチによるバイタル監視を段階的に広げていく計画です。患者の安全を最優先に据えつつ、対象は臨床上の適合性・業務側の準備状況・運用評価にもとづいて選んでいくとしています。

さらに注目されるのが、スマートウォッチのデータを電子カルテ「Epic」に直接連携し、患者観察の記録(ドキュメンテーション)を自動化する計画です。これが実現すると、バイタルチェックにかかる時間が短縮され、看護師がより多くの時間を患者ケアに充てられると見込まれています。

「1回の定時観察に必要な時間が、約2分から40秒程度に短縮できると見積もっています」とリム医師。1シフトあたりの実際の削減効果は、患者の重症度・観察頻度・病棟の業務フローによって変わるといいます。

定時観察を「置き換える」のか

では将来的に、スマートウォッチが定時の手動観察そのものを置き換えるのでしょうか。この問いに対しリム医師は、テクノロジーは専門的な臨床判断を代替するのではなく、臨床ケアを強化するものであるべきだと答えています。

「今後の研究で臨床的な安全性・精度・運用上の信頼性が示され続ければ、慎重に選んだ患者群について観察ワークフローを再設計する機会が生まれるかもしれません。ただしそうした変更には、現行の標準治療を変える前に、さらなる臨床的検証・ガバナンス上のレビュー・規制面での検討が必要です」

NUHは、どの診療科やケアの現場が連続的なスマートウォッチ監視の恩恵を最も受けるかを見極めたうえで、より広い導入を検討していくとしています。国内でも、入院患者へのウェアラブル導入はすでに動き始めています。

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NUHが進めるデジタル医療の一環

今回の連続バイタル監視は、NUHがデジタル技術で患者体験・安全性・ケアの質を高めようとする、より大きな取り組みの一部です。

同院はこれまでにも、ベッドの空き状況を予測するシステムや、腰部脊柱管狭窄症をわずか47秒で解析するといった、複数のデジタル・AIツールを導入してきました。2026年4月にはAI・デジタルヘルスの検証と実装を担うイノベーションハブを立ち上げ、1月にはAIで消化器疾患のスクリーニングと診断を行う「国立大学消化器健康センター」を開設しています。

こうした流れのなかで、ウェアラブルは「病院の外で健康を測る道具」から「入院中の臨床ケアを支える道具」へと役割を広げつつあります。医療現場でのスマートウォッチ活用事例は、こちらにもまとめています。

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まとめ

シンガポール国立大学病院の事例は、市販のスマートウォッチを「臨床判断支援」の位置づけで慎重に組み込み、通常観察を置き換えるのではなく補完するという、現実的なアプローチが特徴です。異常を最大2時間早く捉え、重大イベントの見逃しはなく、夜間の負担も軽減——という結果は、人手不足が課題となる医療・介護の現場にとって示唆に富みます。

一方で、数値の確定は従来機器で行い、標準治療の変更には十分な検証と規制面の検討が要るという慎重さも一貫しています。ウェアラブルが病院の中でどこまで役割を広げられるのか、今後1年の段階的な拡大とEpic連携の成否が、次の焦点になりそうです。

Source: Healthcare IT News

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