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スマートウォッチで集めた体のデータをAIで解析し、心不全(心臓のポンプ機能が低下していく病気)の悪化を“事前に”見つけられるかもしれません。心臓病領域の専門誌「JACC: Heart Failure」に2026年7月1日付で掲載された研究で、ウェアラブル端末を使ったAI監視プラットフォーム「CardioID」が、従来の体重測定による見守りよりも高い感度で、しかも早いタイミングで心不全悪化のサインを検知できたと報告されました。
心不全の見守りは、なぜ難しいのか?
心不全は世界で約6,400万人が抱えるとされる病気で、医療が進歩した現在でも、退院後の死亡率や再入院率が高いことが課題になっています。自宅での遠隔モニタリング(テレモニタリング)はこれを防ぐために行われますが、これまでの方法には課題もありました。早い段階の悪化を捉えきれなかったり、患者側の操作や手間が必要だったり、肺動脈の圧力を測る精度の高い方法は体への負担やコストが大きかったりするためです。そこで、体に負担をかけず、患者が意識しなくても続けられる“受け身(パッシブ)”な監視方法が求められていました。
カギを握る血液バイオマーカー「NT-proBNP」
研究が予測の目標にしたのは、「NT-proBNP」という血液中の物質です。これは心不全の診断や重症度の評価に広く使われるバイオマーカー(体の状態を示す指標)で、その数値の上昇は実際の症状悪化の数か月前から始まり、特に直前の1週間で急に上がることが知られています。つまり、この上昇を早くつかまえられれば、悪くなる前に手を打てる“余地”が生まれるわけです。研究では、基準値から600pg/mL以上、または100%以上の上昇を「心不全悪化のサイン(イベント)」と定義しています。
「CardioID」はどんな仕組み?
CardioIDは、市販のスマートウォッチ(ソニーの「mSafety」プラットフォーム)と専用スマホアプリを組み合わせたシステムです。スマートウォッチが心拍などの生体データを継続的に集め、自宅でできる微量採血キットで2週間ごとにNT-proBNPを測定。これらのデータをクラウド上のAIが解析します。アルゴリズムには機械学習の「XGBoost」が使われ、心拍から導いた指標を14日間の移動データとして分析し、採血のタイミングを基準にした35日間の枠でNT-proBNP上昇の確率を予測します。最初の2週間で、利用者一人ひとりの平常時の体の状態に合わせて調整(キャリブレーション)するのも特徴です。
なお、これは一般的なApple Watchなどの消費者向け機能ではなく、研究用に組まれた医療寄りのプラットフォームである点は押さえておきたいところです。
研究でわかったこと
今回の研究「TRIBE-HF II」は、症状のある心不全患者(18〜85歳、駆出率40%未満、NYHA分類III)を対象にした、多施設の単群観察研究です。参加者124人のうち91人でアルゴリズムを開発し、33人で検証を行いました。追跡期間の中央値は182日です。
検証グループでの成績は、AUC(判別能力を示す指標。1に近いほど良い)が0.865と高く、感度82.6%・特異度89.2%・陰性的中率97.4%という結果でした。
特に注目されるのが、従来の体重ベースの監視との比較です。1人あたり年2回の警告という同じ条件にそろえると、全体の判別能力(AUC)に大きな差はなかったものの、CardioIDのほうが実際の悪化を捉える感度が高く(40.8%対7.2%)、警告から実際のイベントまでの猶予(リードタイム)も長い(中央値14日対4日)という結果になりました。正しく警告できたケースのうち73.7%は、NT-proBNP上昇の7日以上前に検知できていたといいます。さらに、必要なデータがそろう“続けやすさ(アドヒアランス)”も、体重測定の60.6%に対してCardioIDは100%と大きく上回りました。
注意しておきたい点
ただし、この研究にはいくつかの限界があります。単群の観察研究であること、検証グループが33人と小規模であること、対象がNYHA分類IIIかつ駆出率40%未満に限られること、そして評価の目標が「実際の心不全による入院」ではなく「NT-proBNPの上昇」だった点などです。また、CardioIDのアルゴリズムは非公開(企業の営業秘密)で、使用されたスマートウォッチも1機種のみのため、他機種でも同じ精度が出るかは今後の検証が必要です。加えて、この研究は「General Prognostics」社がスポンサーで、著者の一部が同社の共同創業者である点(利益相反)も踏まえて読む必要があります。
まとめ
CardioIDは、スマートウォッチの受け身のデータだけで、心不全の悪化を体重測定より早く・高い感度で捉えられる可能性を示しました。あくまで小規模な検証段階の結果であり、実際の治療や入院の減少につながるかどうかは、今後の大規模な研究を待つ必要があります。とはいえ、日常的に身につけるウェアラブルが“病気の予兆”を捉える入り口になりつつあることを示す、興味深い一歩と言えそうです。
Source: JACC: Heart Failure(Chaturvedi et al., 2026)
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