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健康診断の結果は職場から紙で渡され、処方された薬の記録はお薬手帳に、予防接種の履歴は母子手帳に、そして毎日の歩数や睡眠はスマートウォッチのアプリに。自分の体のことなのに、記録はいつもバラバラの場所にあります。
この散らばった記録を本人の手元にまとめて、自分で持てるようにしようという考え方が「PHR(パーソナルヘルスレコード)」です。国もこの言葉を使って制度を整えていて、マイナポータルでは実際に見られる情報が少しずつ増えてきました。
とはいえ、言葉としてはまだほとんど知られていません。国の調査では66.7%が「PHR」という名称を全く知らないと答えています。ここでは、PHRとは何か、何が含まれるのか、スマートウォッチのデータはPHRなのかを、国の資料をもとに整理します。
PHR(パーソナルヘルスレコード)とは

PHRは Personal Health Record の頭文字で、日本語では「パーソナルヘルスレコード」と呼びます。総務省・厚生労働省・経済産業省がまとめた資料の用語集では、次のように説明されています。
一般的には、生涯にわたる個人の保健医療情報であり、電子記録として本人等が正確に把握し、自身の健康増進等に活用することが期待されるもの、とされています。
大事なのは「生涯にわたる」と「本人が把握する」の2つです。子どものころの予防接種から、学校の健診、大人になってからの健康診断、病気をしたときの薬や検査の記録まで、人生をとおして積み上がっていく自分の記録。それを本人が持ち、自分の健康づくりに使えるようにする。それがPHRの考え方です。
これを実際のサービスとして提供するものが「PHRサービス」で、同じ用語集では、予防や健康づくりに活用したり医療・介護の現場で役立てたりすることを目的に、PHRを保存・管理し、おすすめを提示したりするサービス、と定義されています。健康管理アプリやお薬手帳アプリを思い浮かべると分かりやすいと思います。
病院が持つ記録との違いは「誰が持つか」
健康や医療の記録は、これまでも存在していました。病院にはカルテがあり、健康保険組合にはレセプト(診療報酬明細書)の情報があり、自治体には乳幼児健診の記録があります。
違いは持ち主です。カルテは病院のもので、患者が自由に持ち歩けるものではありません。健康保険組合のデータも、加入者が自分で取り出して、ほかの場面で自由に使えるわけではありませんでした。そうした記録を本人の側に集めて、本人が管理する形にしたものがPHRです。
ここが分かると、なぜ国がわざわざ制度を整えているのかも見えてきます。本人が持つということは、本人が誰かに渡せるということでもあります。渡す相手が主治医なら心強いですが、渡し方を間違えれば取り返しがつきません。だからルールが要るわけです。
PHRに含まれる情報
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国の資料では、PHRに含まれる情報として次のようなものが並べられています。
・乳幼児健診
・予防接種歴
・学校健診
・薬剤情報
・特定健診、がん検診など
・手術などの診療に関する情報
・検査結果
・食事、歩数、運動、活動量、睡眠などのライフログ
前半が病院や自治体、健康保険組合から出てくる情報で、最後のライフログが自分の端末から出てくる情報です。用語集の定義にも「個人が自ら日々測定するバイタル等」がはっきり含まれています。つまりスマートウォッチが記録している歩数や睡眠も、PHRという言葉の中に入っているということです。こうした活動量の数字をどう読むかは、Apple Watchの「ムーブゴール」の目安を解説した記事もあわせて読むと分かりやすいと思います。
マイナポータルで見られるようになったもの

PHRの基盤として国が整えてきたのがマイナポータルです。マイナンバーカードを使って、行政が持っている自分の情報を確認したり、外部のサービスに渡したりできる仕組みになっています。
資料によると、2017年(平成29年)6月にマイナポータルを通じた予防接種歴の提供が始まり、その後、乳幼児健診の結果、特定健診の結果、レセプトの薬剤情報などへと、提供する情報が順に広がってきました。
さらに「マイナポータルAPI」という仕組みがあり、これは民間のサービスが、本人の同意のもとで行政から入手した個人情報を受け取れるようにするものです。健康管理アプリが「マイナポータル連携」をうたっているとき、多くの場合、裏側で使われているのがこの仕組みです。自分の健診結果を、自分が選んだアプリに取り込めるようになった、ということになります。マイナポータルのアプリ自体も移行が進んでいて、その動きはマイナアプリの提供開始を伝えた記事で詳しく取り上げています。
スマートウォッチやスマートリングのデータもPHRなのか

ここで気になるのが、毎日いちばん多くのデータを生んでいるスマートウォッチやスマートリングの扱いです。
答えは、言葉の上ではPHRに含まれる、です。先に見たとおり、用語集の定義には「個人が自ら日々測定するバイタル等」が入っていますし、資料の図でもライフログデータはPHRの一部として描かれています。
ただしルールの対象という意味では、扱いが変わります。国が定めた「基本的指針」が対象にしているのは、健康診断の結果などを扱うサービスが中心です。歩数や睡眠のように、個人が自ら日々計測するデータだけを扱う事業者は対象に含めない、と明記されています。同じ「PHR」という言葉の中にありながら、規制の線はその内側に引かれている、ということです。
ややこしいところですが、実用上はこう考えると分かりやすいと思います。スマートウォッチのデータは、単体では自分だけの記録。医療機関に渡す道がつながった瞬間から、扱いが重くなる。どんな端末がどこまで記録できるのかは、日本で購入可能なスマートリングの比較記事で機種ごとに整理しています。
PHRがあると、何がうれしいのか

国の資料では、目指す姿が3つの段階で示されています。
第1段階は、国民や患者が自分の保健医療情報を適切に管理・取得できる基盤を整えること。マイナポータルから自分の情報を取れるようにする段階です。第2段階は、その情報を適切かつ効果的に活用できる環境を整えること。民間のPHRサービスを安心して使えるルールづくりは、この第2段階に位置づけられています。第3段階は、質の高い保健医療を実現するために情報を活用する段階で、研究開発の推進などが挙げられています。
私たちの生活に近いところで言えば、うれしさは3つあります。
ひとつは引っ越しや転職、転院で記録が途切れないこと。健診結果が本人の手元にあれば、勤務先が変わっても過去の数値を見返せます。
ふたつめは医師に見せられること。診察室で「最近よく眠れていなくて」と言葉で伝えるのと、実際の睡眠データを見せるのとでは、伝わり方が違います。国が定めた指針でも、本人が自ら測定・記録した情報を医療機関等に提供する場面が想定されています。実際に国内では、スマートウォッチのデータを診療に活かす専用外来も生まれています。
みっつめは点ではなく線で見られること。年に一度の健康診断は「その日の写真」ですが、日々の記録が積み重なると変化の向きが見えてきます。資料でも、健診で取得された数値と本人が記録した数値を組み合わせることが想定されています。
ただし「PHR」という言葉は、まだほとんど知られていない

指針を作る過程で行われた利用者アンケート(2020年12月実施、有効回答1,623名)には、現在地がよく表れています。
まず66.7%が「PHR」という名称を全く知らないと回答しました。知っている人は現利用者・過去利用者に偏っていて、言葉として一般には広がっていません。
実際の利用率も、スクリーニング前の母集団を対象とした概算で高いものでも14%程度。よく使われているアプリとして挙がったのは、お薬手帳、新型コロナの接触確認、フィットネスの3つでした。PHRと呼ばれていないだけで、多くの人はすでにPHRサービスを使っているとも言えます。
データを誰と共有したいかもはっきりしていて、連携してもよい相手として多かったのは医療機関でした。健診結果や薬の情報、受診履歴、アレルギー情報といった、まさに診療に役立つデータです。
まとめ

PHR(パーソナルヘルスレコード)とは、生涯にわたる自分の健康・医療の記録を、本人が電子的に持ち、自分の健康づくりに活かせるようにしたものです。乳幼児健診から予防接種、学校健診、薬の情報、健診結果、そして日々の歩数や睡眠まで含まれます。
基盤になっているのはマイナポータルで、2017年の予防接種歴を皮切りに、見られる情報が広がってきました。マイナポータルAPIを通じて、自分が選んだアプリに健診結果を取り込むこともできます。
スマートウォッチやスマートリングが記録しているデータも、言葉の上ではPHRの一部です。ただし国が定めたルールの対象という意味では、自分で測るだけのサービスは外側に置かれています。この線引きと、対象になった事業者に何が義務づけられるのかは、国のルールを条文から整理した記事で詳しく解説しています。
言葉自体はまだ知られていませんが、お薬手帳アプリを使っている人も、スマートウォッチで睡眠を記録している人も、すでにPHRの入り口には立っています。まずは自分のデータがいまどこに、どんな形で貯まっているのかを確かめてみるところからで十分だと思います。
Source: 経済産業省「PHR(Personal Health Record)」/民間利活用作業班報告書(令和3年/2021年4月)/PHRサービス提供者による健診等情報の取扱いに関する基本的指針(令和7年/2025年4月30日改定)
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