スマートウォッチの健康データに、国のルールはあるの? PHRの「基本的指針」をやさしく解説【2026年版】

CMFの製品写真

スマートウォッチやスマートリングを使っていると、歩数も心拍数も睡眠も、毎日どこかへ送られて記録されていきます。ふと「この健康データって、結局どこまで守られているんだろう」と気になったことはないでしょうか。会社から配られた端末なら、なおさらです。

実は日本には、健康データを扱う事業者が守るべき国のルールがすでに用意されています。総務省・厚生労働省・経済産業省の3省が連名で出している「PHRサービス提供者による健診等情報の取扱いに関する基本的指針」です。2021年(令和3年)4月に作られ、直近では2025年(令和7年)4月30日に改定されました。

ただ、この指針はすべての健康アプリを対象にしているわけではありません。むしろ、スマートウォッチのアプリの多くは対象の外側に置かれている可能性があります。どこで線が引かれ、対象になると何が義務になり、私たち利用者は何を確認できるのか。一次資料をたどって整理しました。なお、PHRという言葉自体になじみがない方は、先にパーソナルヘルスレコード(PHR)とは?を読んでいただくと、この記事の内容も入りやすいと思います。

そもそもPHRとは何か

スマートバンドの画面に「74bpm 今日の心拍数」と表示されているところ。日々の記録がPHRの一部になる

PHRは Personal Health Record の略で、日本語では「パーソナルヘルスレコード」と呼ばれます。個人の健康や医療に関する情報を、本人が自分で持ち、自分で活用できるようにしたものだと考えると分かりやすいと思います。

具体的には、健康診断の結果、予防接種の履歴、処方された薬の情報、通院の記録、そして体重や血圧や睡眠といった日々の記録まで含まれます。これまで病院や健康保険組合がそれぞれ別々に持っていた情報を、本人の手元に集めて、予防や健康づくりに役立てようというのが国の考え方です。

2017年(平成29年)にマイナポータルで予防接種歴の提供が始まり、その後は乳幼児健診の結果、特定健診の結果、薬剤情報と、扱える情報が順に広がってきました。同じ時期に民間でも健康管理アプリが一気に増え、そのぶん「個人の健康情報を民間企業が大量に預かる」状況が生まれます。そこで作られたのが、今回の指針というわけです。

ちなみに、こうしたデータを診療の場で使おうという動きは国内の医療機関でも始まっていて、杏林大学医学部付属杉並病院が「スマートウォッチ外来」を新設するなど、専用の外来を設ける病院も出てきています。

国が作ったルールの正体

腕にカフを巻いて血圧を測定している様子。健康診断で測られた数値は指針が対象とする健診等情報にあたる

正式名称は「PHRサービス提供者による健診等情報の取扱いに関する基本的指針」といいます。名前が長いので、ここでは「指針」と呼びます。

この指針は、法律そのものではありません。個人情報保護法という土台があったうえで、健康情報を扱うならここまでやってほしい、という上乗せのルールという位置づけです。だから「違反したら即罰金」という性質のものではありません。同指針のQ&Aにも、指針違反そのものに罰則はないと明記されています。

ただし、まったく効き目がないわけではありません。同じQ&Aは続けて、指針を守っていない事業者はマイナポータル経由で健診等情報を受け取れなくなるおそれがあると書いています。マイナポータルとつながることが売りのサービスにとっては、実質的にかなり重い縛りです。

もうひとつ押さえておきたいのが、改定のたびに性格が変わってきていることです。2021年の策定時と2022年・2023年の改定時は「民間PHR事業者による〜」という名前でした。それが2025年4月30日の改定で「PHRサービス提供者による〜」に変わっています。誰を縛るのかの範囲が、少しずつ広げられてきたということです。

どこまでが対象で、どこからが対象外か

ここが一番大事なところです。指針が対象にしているのは「健診等情報」と呼ばれる情報で、次の3つのいずれか、および予防接種歴と定義されています。

・マイナポータルAPI等を活用して入手できる健康診断等の情報
・医療機関等から個人に提供され、個人が自ら入力する情報
・個人が自ら測定または記録を行うものであって、医療機関等に提供する可能性のある情報

3つすべてに当てはまる必要はなく、1つでも該当すれば対象になります。これは同指針のQ&AのQ1-2で明言されています。

問題は3つ目です。スマートウォッチが測る心拍数や睡眠時間は、たしかに「個人が自ら測定または記録を行うもの」に当たります。しかしQ1-2は、続けてこう書いています。

個人がウェアラブルデバイス等の機器から取得した情報や手入力した情報については、「医療機関等に提供する可能性がある情報」に該当する場合のみ指針の対象となる、という趣旨の説明です。

さらに指針の本体(1.2)にも、こう注記されています。

専ら個人が自ら日々計測するバイタルまたは健康情報等のみを取り扱うPHRサービスを提供する者は、PHRサービス提供者としては含めない、という注記です。

つまり歩数・心拍数・睡眠といった日々の記録しか扱っていないアプリは、この指針の対象に入っていない可能性が高いということです。指針のもとになった民間利活用作業班報告書にも、いわゆるライフログ等の情報は基本的指針の対象としていない、とはっきり書かれています。

指針の対象になる 対象に含まれない
マイナポータルAPI等で入手できる健康診断等の情報 専ら個人が日々計測するバイタル・健康情報だけを扱うサービス
医療機関等から個人に提供され、自分で入力する情報 いわゆるライフログ(歩数・睡眠・心拍などの日々の記録)
自分で測定・記録し、医療機関等に提供する可能性がある情報 単なる健康相談専用のサービス
予防接種歴 個人からデータを預かるだけのクラウドストレージ

指にはめたスマートリング。歩数や睡眠を自分で記録するだけなら、指針の対象には入らない可能性が高い

ここで誤解しないでいただきたいのは、対象外だから無法地帯というわけではないということです。指針の対象でなくても個人情報保護法は当然かかりますし、Q&Aも、対象外のサービスにもそれぞれ関連する指針やガイドラインが存在するので、各者の責任で確認し遵守することが必要だとしています。

大事なのは線の引かれ方です。医療機関に渡る可能性があるかどうかで、国のルールの厚みが変わる。逆に言えば、いま使っているアプリに「かかりつけ医と共有」「健診結果を取り込む」といった機能が付けば、そのサービスは指針の世界に入ってくることになります。

対象になると、事業者は何をしなければならないのか

手首に着けたスマートバンドの画面。事業者に課された義務は、利用者から見れば要求してよいことの一覧でもある

指針は40ページあり、情報セキュリティ対策だけでもかなりの分量があります。ここでは利用者に関係の深いものを選んで紹介します。

取るときは、先に同意を。 健診等情報のうち要配慮個人情報にあたるものは、取得するときも第三者に渡すときも、原則としてあらかじめ本人の同意が必要です。「嫌なら後から言ってください」というオプトアウト方式は認められていません(3.2)。

やめるときも、同じ手軽さで。 同意の撤回は「同意する際と同程度の容易さ」で行えるよう工夫しなければならない、と指針は書いています。同意撤回の窓口がサイトの深層にあってたどり着けないのは望ましくない、とわざわざ名指しされています(3.3)。

消してと言われたら、消す。 本人から求めがあったとき、事業終了で使う必要がなくなったときは、委託先が持っているぶんも含めて消去する義務があります。逆に、長く使っていないからといって黙って消すのも駄目で、一定期間使われない場合に消去する旨を、時期を含めてあらかじめ通知または公表しなければなりません(3.3)。

持ち出せるようにする。 マイナポータルAPI等で入手した健診情報については、利用者へのエクスポート機能を備えなければなりません。サービスを終了する場合も、本人と他のPHRサービスへデータを移せる期間を十分に確保する必要があります(4.2)。乗り換えを考えたときに効いてくる部分です。

守っているか自分で点検し、公表する。 指針には別紙としてチェックシートが付いていて、事業者はこれに沿って定期的に自己点検し、結果を自社のホームページ等で公表しなければならないとされています。しかも、プライバシーポリシーや利用規約と同じページに、分かりやすく載せることが求められています(5.1、3.1.2)。

マイナポータルとつなぐなら第三者認証。 マイナポータルAPI経由で健診等情報を入手する事業者は、ISMSやプライバシーマークといった第三者認証の取得が義務です。それ以外の事業者は努力義務にとどまります(2.2)。

私たちが実際に確認できること

手首に着けたスマートバンドの画面。時刻と一緒に歩数や心拍数などの記録が並んでいる

ここまで読むと分かるとおり、この指針は利用者の側から見れば「これは要求してよい」という一覧でもあります。実際に確認できることを挙げてみます。

まず、気になるサービスのプライバシーポリシーのページを開いてみることです。そこにチェックシートの点検結果が載っているかどうかは、その事業者が指針を意識しているかどうかの分かりやすい目印になります。載っていない場合、指針の対象外なのか、対象なのに公表していないのかまでは分かりませんが、確認する価値はあります。

次に、「マイナポータル連携」をうたっているサービスなら、ISMSかプライバシーマークを取得しているかを見てみてください。これは努力義務ではなく義務とされている部分なので、取得状況を確認しておく価値があります。

そして、同意の撤回とデータの書き出しがどこにあるかを、契約する前に一度探してみることをおすすめします。指針が「同意する際と同程度の容易さ」を求めているのは、裏を返せば、そうなっていないサービスが現実にあるということでもあります。買う前に確かめておきたいことは、海外版スマートウォッチを買う前に確認したい5つのことでも整理しています。

利用者が本当に警戒しているのは、どこか

手に持ったスマートバンドの画面に「睡眠の段階」としてレム睡眠・浅い睡眠・深い睡眠の内訳が表示されているところ

指針を作る過程では、利用者へのアンケート調査も行われています。2020年(令和2年)12月に実施され、有効回答は1,623名(現利用者867名・過去利用者203名・未利用者553名)、平均年齢45.5歳。別に、健診等情報を扱うサービスの利用者1,774名への追加調査もあります。数字が具体的で、いま読んでも示唆的です。

まず、そもそも66.7%が「PHR」という名称を全く知らないと回答しています。言葉としてはほとんど浸透していません。

データ連携については、15%前後が「全て連携してもいい」、50%前後が「全て連携したくない」という結果でした。そのうえで、連携してもいい相手として多かったのが医療機関で、データとしては健診結果・薬情報・受診履歴・アレルギー情報でした。

逆に連携意向が低かった相手は、勤務先・第三者企業・保険者です。データとしては経済状況・家族情報・介護情報、目的としては商品開発やマーケティングが嫌われていました。健康データが職場や保険の話に使われることへの警戒が、はっきり数字に出ています。

同意のあり方も印象的です。全てのデータに対する包括的な同意で構わないと答えた人は約7%にとどまり、約9割がデータの範囲や種類ごとに同意を判断したいと答えました。一方で、実際に個別に同意している割合は2割強で、同意の適用範囲やデータ共有相手が分からず不安を感じている人は4人に1人。望んでいる形と、現実にできている形にずれがあるということです。

そのほか、サービス終了時のデータは「全て消去したい」人と「何らか残したい」人が半々、判定スコアやプロファイリング結果を信頼している人は約3割でした。なお、事業者に渡すかどうか以前に、自分の公開設定が意図せず外に開いていることもあります。ランニングの位置情報記録から軍事機密が漏洩したStrava事件は、その分かりやすい例です。

これから変わりそうなこと

オレンジ色のバンドを付けたスマートウォッチを机の上に置いたところ

指針のもとになった作業班報告書には、「今後の検討課題」として積み残しが並んでいます。スマートウォッチのユーザーにとって気になるものを挙げると、次のようなものです。

・いわゆるライフログ等の利活用に際して留意すべき事項
・同じデータ項目でも、健診で取得したものと本人が入力したものとでは計測方法や改変の可能性に違いが生じ得るため、区別した管理の在り方
・データの保存・管理における、利用者による改ざん防止対策
・情報種別ごとの名称や単位の統一、通信規格や交換形式の標準化
・要件を守っていることについて、第三者による証明が行われることがより望ましいこと

2つ目は、そのままスマートウォッチの話です。健診で医療機器を使って測った数値と、腕に着けた端末が日常のなかで記録した数値は、同じ項目名でも成り立ちが違います。それを同じ器に入れていいのか、という論点が国の側にも残されています。

報告書はさらに、指針よりも高い水準を目指す民間主導のガイドラインを作ることが望ましいとし、その策定主体や認定主体としてPHR事業者による団体が設立されることを期待すると書いています。経済産業省のページには現在、関連団体としてPHRサービス事業協会がリンクされています。制度側の動きとしては、マイナカードのスマホへの集約が加速していることも、あわせて押さえておくとよさそうです。

まとめ

整理すると、こうなります。国は健康データを扱う事業者に向けたルールをすでに用意していて、それは3省連名の「基本的指針」という形で公開されています。ただしその対象は「健診等情報」を扱うサービスに限られ、歩数や睡眠を記録するだけのアプリは対象の外側に置かれている可能性が高い。医療機関に渡る可能性があるかどうかが、線の引かれ方を決めています。

対象になれば、事前の同意、同じ手軽さでの撤回、消去、データの持ち出し、自己点検結果の公表、マイナポータル連携時の第三者認証といった義務がかかります。これらは利用者から見れば、要求してよいことの一覧です。

そして、利用者自身が最も警戒しているのは勤務先・第三者企業・保険者への連携でした。この感覚は、指針が守ろうとしているものと、そう遠くありません。

スマートウォッチを買うとき、私たちはバッテリーの持ちやセンサーの数を比べます。それに加えて「このデータは誰に渡るのか」「やめたいとき、消してもらえるのか」も見ておくと、長く付き合える1台を選びやすくなるはずです。指針の全文は経済産業省のページから誰でも読めるので、気になる方は一度のぞいてみてください。

Source: 経済産業省「PHR(Personal Health Record)」PHRサービス提供者による健診等情報の取扱いに関する基本的指針(令和7年4月30日改定)同Q&A民間利活用作業班報告書

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