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カナダのオタワ大学(University of Ottawa)の研究チームが、スマートウォッチ・スマートフォン・イヤホンといった日常的なウェアラブル機器から心拍変動・声のトーン・書かれたテキストを読み取り、ユーザーの感情状態を判断したうえで先回りでメンタルケアを行うAIアシスタント「UbiMyTherapist(ユビ・マイ・セラピスト/You Be My Therapistの略)」のプロトタイプを公開しました。2026年6月26日、同大学の研究広報サイトと海外テックメディアを通じて発表されました。
UbiMyTherapistとは:「話しかけられる前に助ける」AIアシスタント
従来のメンタルヘルス向けチャットボットには共通した弱点があります。それは、ユーザー側が「話しかける」ところから始まること。ストレス・不安・混乱の真っ只中にいる人ほど、自分の感情を言葉にしてAIに打ち明けるのが難しく、必要なサポートに辿り着きにくい構造でした。
UbiMyTherapistはこの順番を反転させます。スマートウォッチなどから取れる生体信号や声・テキストをリアルタイムで読み取り、苦痛のサインが出ているとシステムが判断したタイミングで、AI側から先にサポートを差し出す設計です。プロジェクトを率いるオタワ大学電気工学・コンピュータサイエンス学部のKarim Alghoul客員教授は、次のようにコメントしています。
「臨床現場の外で、安全かつパーソナライズされたメンタルウェルビーイング支援をタイムリーに届けるにはどうすればよいか。UbiMyTherapistはその問いに対する私たちの答えです」
「デジタルツイン」を作り、医療履歴×心理学知識×リアルタイム感情で応答する
UbiMyTherapistの肝になるのが、研究チームが「デジタルツイン(digital twin)」と呼ぶユーザープロファイルです。これは単なるアカウント情報ではなく、以下3種類のデータを継続的に組み合わせ・更新していく動的な“分身”を指します。
・ユーザーの医療履歴(診断歴・服薬歴など)
・臨床心理学の知識データベース(臨床文献に基づく専門知識)
・リアルタイムの感情状態データ(心拍変動などの生体信号、声のトーン、テキスト内容)
この3つを組み合わせることで、AIは「ユーザーがいま何を言っているか」だけでなく「ユーザーはどんな人で、いまどんな状態か」まで考慮した、共感的かつ臨床的に根拠のある応答を返せるとされています。汎用チャットボットにありがちな「いったん深呼吸しましょう」式の薄いアドバイスではなく、その人の文脈に合わせて返答を組み立てるのが狙いです。
「reactive」と「proactive」、2つのモード
UbiMyTherapistは大きく2つのモードで動きます。
・reactive(リアクティブ)モード:ユーザー側から話しかけたときに応答する、従来型のチャット支援モード
・proactive(プロアクティブ)モード:生体信号や声・テキストから苦痛のサインを検知し、ユーザーが話しかける前にAI側から声をかける先回りモード
この「先回り型」が今回の研究の最大のユニークさです。スマートウォッチが普段から取っている心拍変動や、イヤホンに乗る声色の変化、スマホでの文字入力パターンの揺らぎなど、本人が気づかない・言葉にできない感情の揺れをハードウェア側がつかみ、AIが寄り添うタイミングを判断します。
24名の被験者評価で、ChatGPTより共感性とパーソナライズで高得点
研究チームはreactiveモードのプロトタイプを24名のボランティアに使ってもらい、その応答内容をライセンスを取得したセラピストたちが「治療的に妥当か」という観点で評価しました。
その結果、UbiMyTherapistはChatGPTのような既存の標準的なLLMセットアップと比較して、共感性とパーソナライズの項目で特に高い評価を得たとオタワ大学は報告しています。Alghoul教授は次のように述べています。
「リアルタイムの感情コンテキストを組み込むことで、応答の質が本当に変わることを確認できました」
研究成果は「UbiMyTherapist: A Digital Twin MultiModal LLM-based System with Emotion Detection」という論文として、世界最大規模の技術学会であるIEEE(Institute of Electrical and Electronics Engineers)に掲載されています。著者はKarim Alghoul氏、Raina Sharma氏、Hussein Al Osman氏、Abdulmotaleb El Saddik氏の4名です。
人間のセラピーの代替ではなく、アクセス障壁を埋める設計
研究チームはUbiMyTherapistを人間のセラピストの“置き換え”として位置づけてはいないことを明確に強調しています。狙いは、コスト・スティグマ(恥や偏見への抵抗感)・地理的アクセスの限界などで臨床現場のサポートに辿り着けない人たちに、クリニックの外でメンタルケアの“足場”を提供すること。
「この研究は、いつでもどこでもアクセスできて、パーソナライズされていて、状況に応じたメンタルウェルビーイング支援への扉を開きます。臨床心理士が自分の患者をより深く理解しサポートするための助けにもなります」(Alghoul教授)
すでに精神疾患ケアや気分変動の予測など、ウェアラブルから取れる生体信号を心理面に活かす研究は世界中で進んでおり、UbiMyTherapistはそうした流れの中で「AIが先回りで動く」という新しい一歩を示した格好です。
今後の計画:スマートウォッチ信号でリアルタイム介入へ
研究チームは今後、現在のプロトタイプを拡張してスマートウォッチから取れる生体信号にニアリアルタイムで反応するproactiveモードを本格的に実装し、より多くのライセンスセラピストと組んで臨床的な妥当性を継続的に担保していく計画です。
UbiMyTherapistはまだコンシューマー製品ではなく、研究段階のプロトタイプですが、「手首から拾った信号で、ユーザーがひと文字も打つ前にメンタルサポートを開始する」という発想は、AIヘルスケアとウェアラブルが交差していく今後の方向性を象徴しています。
まとめ:「自分から話しかけられない人」にこそ届くAIケア
UbiMyTherapistの研究が示しているのは、AIメンタルケアの真の課題が「いい応答を返すこと」だけでなく、「気づくこと」と「先に声をかけること」に移りつつあるという視点です。
普段から手首に着けている時計や、耳に挿しているイヤホンが感情の揺れをそっと拾い、必要なタイミングでAIが寄り添う。そうした世界線が研究レベルで動き始めたという意味で、スマートウォッチ・ウェアラブルが「健康指標を測る道具」から「メンタルケアの入口」へ役割を広げていく前兆と言える発表です。日本で使えるサービスになるかどうかはまだ未知数ですが、ウェアラブル+AIの将来像を考えるうえで押さえておきたい研究です。
Source: University of Ottawa Research and Innovation / The Next Web / 論文:UbiMyTherapist: A Digital Twin MultiModal LLM-based System with Emotion Detection (IEEE)
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