スマートグラスが「ナンパ動画」の撮影機材になっている|シドニー大の研究が示した「アンビエント・キャプチャー」の実態【海外ニュース】

NEWS

公開日:

テーブルに置かれたスマートグラスのイメージ写真。ハンズフリーで周囲の情報を読み取るウェアラブルデバイス

カメラを内蔵したスマートグラスが、女性を無断で撮影し、その映像をSNSで拡散するための道具として使われている——。オーストラリア・シドニー大学の研究チームがそう警告しています。英メディアのThe Independentが2026年8月10日に報じました。

撮影されていたのは、街中だけではありません。職場、ジム、マンションの階段、ビーチ。多くの人が「ここでは撮られないだろう」と考える場所です。ウェアラブルを日常的に使う立場として、この指摘は避けて通れないものだと感じました。

スマートグラスとウェアラブル技術のイメージ

画像はイメージです(出所:Unsplash)

何が起きているのか|「ナンパ動画」の撮影機材になっている

研究チームが分析したのは、2023年から2026年にかけてInstagramに投稿された、いわゆる「ナンパ系」クリエイターの動画数百本です。

手口はこうです。スマートグラスをかけた男性が女性に声をかけ、電話番号やInstagramのアカウントを聞き出す。そのやりとりを一人称視点で撮影し、エンゲージメント目当てでSNSに投稿する。撮影されている側は、自分が撮られていることに気づいていません。

研究では、水着姿でビーチにいた女性や、仕事中・トレーニング中の女性が撮影されていた例も確認されたとしています。

数字が示す実態|6割に「ハラスメントの可能性」

分析結果として示された数字は、かなり重いものでした。

・分析した隠し撮り型の一人称視点動画のうち、約60%にハラスメントに該当しうる行為が確認された
43%の動画では、映された女性が侮辱的なコメントにさらされていた
・一部では女性が特定され、個人情報を晒される「ドクシング」の被害にも遭っていた

そして研究チームが強調しているのが、多くの女性が不快感や拒否の意思を示していたにもかかわらず、撮影とやりとりがそのまま続けられていたという点です。断られても撮影は止まらず、その様子ごと投稿される。ここが単なる「声かけ」との決定的な違いです。

研究者が名付けた「アンビエント・キャプチャー」

シドニー大学の博士研究員であるミリツァ・スティリノヴィッチ氏は、この状況を「アンビエント・キャプチャー(ambient capture/環境的な撮影)」と呼んでいます。

「スマートグラスは、ナンパ師が女性をさらに搾取するための新しい道具になりました」と同氏は述べ、次のように続けます。

「男性は一見、警戒させないように見えるかもしれません。しかし彼らは職場でも、マンションの階段でも、路上でも、ジムでも、ビーチでも——あなたがある程度のプライバシーを期待して当然の場所で、つきまとい、嫌がらせをしてきます。自分が撮られているかどうかは分からない。そしてその映像がアップロードされ、さらに広い範囲の嫌がらせにさらされることになるのです」

撮られているかどうかが分からない、という点がこの問題の核心です。スマートフォンを構えられれば誰でも気づきますが、眼鏡は顔に載っているのが自然な状態です。

研究チームの提言|「新製品の投入を緩めてほしい」

研究チームは各国政府とテック企業に対し、プライバシー保護と悪用防止の規制が追いつくまで、スマートグラスの新製品投入ペースを落とすよう求めています

「テクノロジーは猛スピードで走っていて、一歩後ろにいる規制当局は、被害がすでに現実に現れてしまってからでは規制できません」(スティリノヴィッチ氏)

製品を紹介する側としては耳の痛い提言ですが、米ニューヨーク州が州内の全1,240裁判所でスマートグラスを禁止したように、実際に「使わせない場所」を決める動きはすでに始まっています。

Metaの対応|LEDと「改ざん検知」

名指しされた形のMetaは、対策を講じていると説明しています。

同社のグラスには撮影中に点灯するLEDライトが最初から搭載されています。ただ、このライトを無効化する方法を紹介する動画がネット上に多数出回ったため、ライトが物理的に細工・破壊されたことを検知するとカメラが動作しなくなるよう仕様を変更したとしています。

Metaの広報担当者のコメントは次のとおりです。

「当社のAIグラスは、安全性の専門家との対話を踏まえ、プライバシーと安全の機能を最初から組み込んで設計しています。写真や動画を撮影する際には必ずLEDが点灯します。改ざん検知技術も搭載しており、LEDが物理的に細工または破壊されたことを検知した場合にはカメラを無効化するアップデートを進めています。ここまでやっているカメラは他にありません

あわせて、Instagram責任者のアダム・モセリ氏が「あらゆる手段で対処している」と述べたことを受け、ナンパ系動画の取り締まりを強化しているとしています。

広がる「使用お断り」

規制を待たずに、施設側が独自に線を引く動きも広がっています。

・英国の大手パブチェーン「Wetherspoon」が、店舗内でのMetaグラスの使用を禁止。「ひそかな監視を可能にする」と指摘
・一部の学校が校内での使用を禁止
・Comic-Conを運営するMonopoly Eventsが、来場者やゲストの「隠し撮り」を防ぐためイベントでの使用を禁止

DV被害者を支援する英慈善団体Refugeは、スマートグラスが「公共の場にいるすべての女性と少女の安全を脅かし、嫌がらせや監視、その他の虐待を助長している」と繰り返し警告しています。

法律はどこまで届くのか

英国では公共の場での撮影自体は合法です。一方で、人がプライバシーを期待して当然の場所での撮影は、土地の所有者の明確な同意がない限り、一般には認められていません。

英政府の広報担当者は「不安や苦痛を与える目的で公共の場で他人を撮影する行為は、ハラスメントやストーキングなどの犯罪に該当する可能性があります」とコメント。性的画像の悪用については、Crime and Policing Actの新しい罪によって被害者保護を強化しているとしています。

つまり「撮影が合法かどうか」と「その行為が許されるかどうか」は別の話だということです。ここは日本で考えるときにも同じ構図になります。

ウェアラブルを使う側として、何を考えるか

ここからは、スマートグラスを実際に使う立場からの話です。

Ray-Ban Metaは日本でも購入できますし、INMO GO3のような翻訳特化のAIグラスも国内に入ってきています。翻訳や記録の道具として、これらが便利なのは間違いありません。実際、SWLでも繰り返し取り上げてきました。

だからこそ、「撮っていい場所か」ではなく「撮られる側がどう感じるか」で考えるほうが実態に合っていると思います。LEDは撮影中であることを知らせる仕組みですが、相手がそれに気づける保証はありません。混雑した場所なら、まず気づかれないでしょう。

製品側の工夫も出てきています。INMO GO3は物理的なカメラカバーを用意していて、使わないときは物理的に塞げます。ソフトウェアのLEDと違い、これは相手からも一目で分かります。カメラを載せるかどうかを含めて設計を再検討していると噂されるアップルのスマートグラスも、同じ問題意識の延長線上にあると見ていいはずです。

スマートウォッチにも同じ話があります。心拍や睡眠のデータは、本人にとっては健康管理の材料ですが、扱いを誤れば他人に知られたくない情報そのものです。身につけるデバイスは、便利さと引き換えに、常に誰かの情報に触れている。スマートグラスはその境界がいちばん見えやすくなった形だと言えます。

まとめ

今回の研究が突きつけているのは、技術の悪用は「一部の人」の問題では済まなくなっているということです。分析対象の6割に問題行為が認められたという数字は、例外的な事例を拾い集めた結果ではありません。

スマートグラスは、翻訳や記録、視覚支援など、確かな価値を持つ道具です。アップルが健康分野での活用を模索しているように、可能性はこれから広がっていきます。

だからこそ、使う側が線を引けるかどうかが問われています。禁止される場所が増えてから慌てるより、自分がかけているとき、周りの人がどう感じるかを一度想像してみる。それだけでも、この技術の未来はだいぶ変わってくるはずです。

あわせて読みたい関連記事

米ニューヨーク州、裁判所でスマートグラスを禁止へ|米国初の州全体ルール、7月20日から全1,240裁判所で

アップル初のスマートグラスはWWDC 2027でお披露目か? プライバシー重視でRay-Ban Metaに対抗、カメラ有無も検討中との噂

Appleのスマートグラスは“次の健康デバイス”になるのか? Vision Proで断念したフィットネス構想と、求人票が示す再挑戦

TD SYNNEXがAI/ARスマートグラス「INMO GO 3」の国内取り扱いを開始|98言語翻訳・約58g

INMO、AIスマートグラス「INMO GO3」製品発表会をレポート|相手がグラス不要の双方向翻訳を実演

Meta、視覚障害の退役軍人にRay-Ban Meta AIグラスを無償提供へ まず米セントルイスで配布イベント

Source:The Independent/画像:Unsplash

 はじめての方・記事の探し方に迷った方へ
記事が多くて迷ったら、 記事の探し方ガイド から目的別に読めます。

※本記事のリンクから商品を購入すると、売上の一部が販売プラットフォームより当サイトに還元されることがあります。掲載されている情報は執筆時点の情報になります。
     

関連記事