TDKがスマートグラス向け網膜直接描画ディスプレイを実証|厚さ150nmのミラーをレンズに埋め込み透過率80% 正面の人に映像は見えない

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TDKのメタオプティクスミラーを使ったスマートグラスの試作機をかけた様子。つるのレーザーモジュールから出た光がレンズ内のミラーで反射し、目に届くイメージ

2026年10月2日、TDKは、メタオプティクスミラーを使ったスマートグラス向けの「網膜直接描画(Direct Retinal Projection:DRP)ディスプレイ」の実証に成功したと発表しました。TDKによると、メタオプティクスミラーを使った網膜直接描画ディスプレイの実証は世界で初めてです。

ミラーの厚さは150nm(ナノメートル)、透過率は80%で、普通のメガネレンズの中に埋め込めます。映像を映す部品が前に飛び出さないので、見た目はふつうのメガネに近くなります。TDKは10月13日から始まるCEATEC 2026に、このミラーを使ったスマートグラスのデモ機を出展します。

いまの試作は1色(モノカラー)の表示で、製品として買えるものではありません。TDKは数年以内にフルカラー対応の実証と量産化をめざすとしています。いま買えるスマートグラスで何ができるのかは、スマートグラスは何ができてどこで買えるのかで紹介しています。

ディスプレイ付きスマートグラスの普及率は約5% TDKは見た目とコストが壁と見る

2024年から2031年までのスマートグラス出荷台数の予測グラフ。2030年に8,300万台に拡大すると示している

TDKが同じ日に公開した解説記事によると、スマートグラスの市場は2030年に8,300万台まで広がると予測されています(出所:富士キメラ総研「2025 XR関連光学部材市場の最新動向」)。

一方で、ディスプレイを搭載したスマートグラスの普及率は、現在約5%にとどまっているといいます。TDKはその大きな理由として、価格とともに「外観が日常になじまないこと」を挙げています。どれだけ機能が優れていても、毎日かけるものとして見た目が不自然だと、多くの人には受け入れられにくい、という見方です。

国内でも、Even Realities G2のように度付きレンズで作れるディスプレイ付きのスマートグラスが、眼鏡店で買えるようになってきました。こうした製品が増えるほど、メガネとしての自然さは選ぶときの大事な条件になっていきそうです。

導波路方式は虹模様と映像漏れ 網膜直接描画は曲面ミラーがかさばる

導波路(ウェーブガイド)方式と網膜直接描画方式の課題を外観、プライバシー、コストで比べたTDKの表

スマートグラスがレンズに映像を出す方法はいくつかあります。TDKの解説では、いま主流なのは「導波路(ウェーブガイド)方式」です。プロジェクターから出た光を、メガネレンズの中にある薄い層へ導き、内側で反射させながら目の前に映像を表示する仕組みです。

ただ、TDKは導波路方式の課題として次の3つを挙げています。

・レンズの表面に虹模様(アイグロー)が目立つことがある
・周りの人に映像の内容が見えてしまうプライバシーのリスクがある
・複雑な光学部品を組み合わせるので、作るのが難しくコストが高い

導波路方式は、日本で販売されているスマートグラスでも使われています。SWLで紹介したINMO GO3も、仕様表のディスプレイ欄に「回折光学導波路」とあります。

もうひとつの方式が、今回の「網膜直接描画(DRP)方式」です。レーザー光を目の奥にある網膜に直接当てて、映像を描きます。TDKの解説では、視力に関わらず鮮明な映像が見られ、映像も外に漏れにくいとされています。

ところが、これまでの網膜直接描画では、光を網膜へ正確に反射させるために、目の前に厚みのある「曲面ミラー」を取り付ける必要がありました。部品が大きく飛び出したような見た目になり、自然なメガネの形にはできなかったのです。

厚さ150nmのメタオプティクスミラーが曲面ミラーの代わりになる

メタオプティクスミラーの仕組みを示す図。長さ200nmから1500nmの素子がレーザー光を通常の反射方向とは違う負の反射角で目へ向ける

そこでTDKが開発したのが「メタオプティクスミラー」です。TDKはこれを、導波路も曲面ミラーも使わない「第三の方式」と位置づけています。

メタオプティクスとは、ナノサイズのとても小さな構造を平らな面に並べて、光の反射や屈折、集光をコントロールする技術です。TDKの説明では、透明な基板の表面に1万分の1ミリほどの構造体を決まったパターンで敷き詰め、光の進む方向を操ります。

これまでのレンズやミラーは、ガラスやプラスチックの厚みや曲面で光の向きを変えていました。メタオプティクスミラーは、ミラーの場所ごとに光の反射角が変わるように反射体を並べています。これにより、ふつうの鏡とは違う向きに光を返す「負の反射角」を実現し、いろいろな角度から入ってくるレーザー光を、網膜直接描画に必要な角度で反射できるといいます。

メタオプティクスミラーの特長をまとめた図。ナノサイズ反射構造、透過率80%、メガネレンズに埋め込み可能の3点

ミラーの厚さはわずか150nmで、可視光の波長よりも薄い超薄型です。かさばる曲面ミラーの働きを、薄く平らなレンズの上で再現できるようになりました。

ナノサイズの構造で光を操る技術は、ほかのメーカーも研究しています。京セラも、ガラス表面の微細な構造で光を制御する「メタレンズ」を発表しています。

透過率80%でふつうのメガネに近く 正面の人に映像は見えない

メタオプティクスミラーを搭載したTDKのスマートグラス試作機。厚さ150nmのミラーが普通のメガネレンズの中に埋め込まれている

メタオプティクスミラーは、映像を描くのに必要な光はしっかり反射しつつ、可視光の透過率は80%あります。TDKは、通常のメガネレンズと同じくらいの透明さを持つ、自然な外観のスマートグラスが作れるとしています。

TDKが挙げる利点は、見た目のほかにもあります。

・光の干渉で出る虹模様の影響を減らせる
・向かい合った人の側に映像が漏れないので、見た目の違和感やプライバシーの心配がない
・半導体と同じようなプロセスで作れるので、コスト面で競争力のある量産をめざせる

映像が外から見えないことについて、TDKの解説では「電車や街中でも周囲を気にせず使用することができます」と説明しています。

製造は、半導体づくりで使われる加工技術(ウェハプロセス)で行えるといいます。高価な導波路ディスプレイや、複雑な光学部品の組み立てがいらないため、部品の構造を大きく簡素化できるとTDKは見ています。

今はモノカラー表示 数年以内にフルカラーの実証と量産をめざす

TDKのメタオプティクスミラー搭載スマートグラスの構成図。つるに入ったレーザー光モジュールからの光を、ナノサイズの反射体が網膜へ向けて反射する

いまのメタオプティクスミラーは1色の表示(モノカラー)に対応しています。TDKは、数年以内にフルカラー対応の実証と量産化の実現をめざすとしています。発売時期や価格は発表されていません。

TDKはこれまで、世界最小クラスの「超小型フルカラーレーザーモジュール(FCLM)」や、4Kの映像解像度を実現できる「可視光フルカラーレーザー制御デバイス」など、網膜直接描画に必要な部品を開発してきました。

さらにTDKは株式会社QDレーザと事業協力契約を結んでいます。QDレーザ独自の網膜投影技術や特許と、TDKのFCLM、レーザー制御デバイス、メタオプティクスミラーを組み合わせ、スマートグラス向けの次世代RGB光源モジュールと光学エンジンの開発を進めています。

開発を担当するTDK 技術・知財本部 メタオプティクス開発室の水野友人室長によると、出発点は2022年7月に社内で「眼前の反射ミラー排除」が議論されたことでした。2023年からはQDレーザとも連携して試作を重ねてきたといいます。

TDKは、メタオプティクス技術をスマートグラス以外にも広げる考えです。AIデータセンターで電気信号を光信号に変えて通信する「光電融合デバイス」への応用も期待されるとしています。

CEATEC 2026とelectronica 2026で試作機を展示

TDKは、メタオプティクスミラーを使ったスマートグラスのデモ機を、10月13日から開かれるCEATEC 2026に出展します。英語版のリリースによると、11月10日から13日に開かれるelectronica 2026でも試作機を展示する予定です。

展示会 会期
CEATEC 2026 2026年10月13日から
electronica 2026 2026年11月10日〜13日

まとめ

TDKは、厚さ150nmのメタオプティクスミラーをレンズに埋め込み、網膜に直接映像を描くスマートグラスの実証に成功しました。導波路方式で問題になる虹模様や映像漏れを抑え、これまでの網膜直接描画で必要だった曲面ミラーもなくせるのが、今回の技術のポイントです。

いまはまだモノカラーの試作段階で、フルカラー化と量産は数年以内の目標です。それでも、スマートグラスを「ふつうのメガネ」に近づける部品の話として、CEATEC 2026の展示でどこまで自然に見えるのかが気になります。

画像:TDK株式会社

Source: TDK株式会社 プレスリリース / TDK Featured Stories「スマートグラスを日常に変える『メタオプティクスミラー』とは?」 / TDK Corporation Press Release(英語)

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