米国移民税関執行局(ICE)が、移民管理プログラムの一環として妊娠中の女性にスマートウォッチ型の位置情報監視デバイスを装着させ、出産や帝王切開の最中でさえ追跡を続けている実態が明らかになりました。
この問題を報じたのは、英紙The Guardian。妊婦本人だけでなく、医療従事者にとっても深刻な混乱と恐怖をもたらしている現場の証言が詳細に伝えられています。
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出産直前でも外せない「監視用スマートウォッチ」
記事によると、2025年9月、コロラド州の病院に妊娠9カ月の女性が救急搬送されました。女性はICEの「代替拘禁プログラム(ATD)」の対象となっており、手首には位置情報を常時送信する専用スマートウォッチが装着されていました。
この端末は一般的なApple WatchやGalaxy Watchではなく、ICEが指定する監視専用デバイスです。充電が切れかけると警告音が鳴り、女性は「電池が切れたら逃亡と判断されるのではないか」と強い不安を抱いていたといいます。
実際、彼女は数日前にも、出産間近の状態でメキシコへの強制送還便に乗せられそうになり、パイロットの判断で搭乗を拒否されたばかりでした。
帝王切開と監視デバイスの深刻な衝突
出産が順調に進まず、女性には帝王切開が必要となりました。しかし手術では、感電や火傷を防ぐため、金属類や電子機器の装着が原則禁止されます。
問題は、この監視用スマートウォッチが本人の意思では外せない構造だったことです。病院側はICEへの連絡方法も分からず、デバイスが手術に安全かどうかの情報も持っていませんでした。
医療スタッフが「切断して外す可能性がある」と伝えると、女性は激しく動揺し、「赤ちゃんを奪われるのではないか」と泣き崩れたといいます。
最終的に装置は外され、ICE職員が病院に現れることはありませんでしたが、退院後の女性と赤ちゃんがどうなったのかは分かっていません。
BI Incと「代替拘禁プログラム(ATD)」
この監視システムを提供しているのは、BI Incという企業です。同社は米国政府最大の移民監視プログラム「Alternative to Detention(ATD)」を運営しています。
ATDでは、対象者に以下のような監視手段が課されます。
・GPSアンクルモニター
・スマートウォッチ型GPS端末(VeriWatch)
・顔認証アプリによる定期チェック
・BIやICEオフィスへの定期出頭
ICEは妊婦にはアンクルモニターを使わず、代わりに外せないスマートウォッチ型デバイスを装着させる方針を取っています。しかし医療現場では、この判断が新たなリスクを生んでいます。
医療現場で起きている「遅れ」と「萎縮」
コロラド州の病院では、ここ数カ月で同様の監視デバイスを装着した妊婦を3人受け入れたといいます。いずれのケースでも、患者はデバイスの取り外しを恐れ、医療行為が遅れる場面がありました。
医療従事者は「出産では20分早く帝王切開を行うことで重大な事態を防げることがある。監視装置の扱いを巡って時間を失うこと自体が危険だ」と語っています。
州の矯正局が発行する監視装置には医療時の明確な取り外し手順がありますが、ICEのATDには統一されたプロトコルが存在しません。
監視が医療アクセスを遠ざけている現実

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この問題は妊婦に限りません。カリフォルニアやシカゴでは、移民コミュニティ全体で病院受診や定期通院、薬の受け取りが大幅に減少していることが確認されています。
・妊婦が妊娠後期まで初診を受けない
・ワクチン接種を避ける
・緊急事態になるまでERに行かない
監視と拘束への恐怖が、結果として医療リスクを高めている構図が浮かび上がります。
日本だったら起きないのか
日本では、在留外国人に対してGPSスマートウォッチによる常時監視を行う制度は現在のところ存在しません。
しかし、日本でも在留資格への不安から医療を避ける外国人や、制度の不透明さによる「自己規制」が問題として指摘されています。将来的に管理強化や効率化を理由にデジタル監視が導入された場合、日本特有の空気や忖度によって、表に出にくい形で医療回避が広がる可能性は否定できません。
スマートウォッチは「健康管理」か「拘束具」か
スマートウォッチは本来、健康管理や安全見守りのためのデバイスです。しかし今回の事例は、同じ形状のデバイスが、設計と運用次第で人の尊厳を脅かす存在になり得ることを示しています。
外す自由があるのか。
例外を想定しているのか。
誰のためのテクノロジーなのか。
それらが欠けたまま導入される監視技術は、最も声を上げにくい人々に重くのしかかります。
Source:The Guardian
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