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うつ病の治療に使う在宅用ヘッドセット「Flow FL-100」が、2026年9月1日から米国で処方を受けて使えるようになりました。開発したスウェーデンのFlow Neuroscience(フロー・ニューロサイエンス)が9月16日に発表したもので、米食品医薬品局(FDA)が2025年12月8日に市販前承認(PMA)の手続きで承認した医療機器です。米NBC Newsも10月1日の動画で、医師で医療担当記者のアクシャイ・サイアル氏の解説とともに取り上げました。
頭に着けて弱い電流を流すこの機器は、医師の診断と処方が前提で、使える人の条件もはっきり決められています。ウェアラブルが医療機器としてFDAの審査を通る例は増えていて、8月には血糖とケトンを同時に測るアボットのセンサーも認可されました。FDAの公開資料と臨床試験の論文をもとに、何が認められたのかを順に整理します。
Flow FL-100は、おでこに当てるヘッドセットとスマホアプリの組み合わせ

Flow FL-100が使っているのは、経頭蓋直流電気刺激(tDCS)という方法です。頭皮に当てた電極から弱い直流の電流を流し、脳の表面に近い神経細胞の興奮しやすさを変えることを狙っています。FDAの資料によると、電流の強さは2.0mAです。
刺激する場所は、おでこの奥にある前頭前野と呼ばれる部分です。気分や感情の調整に関わる場所とされていて、論文では左側の前頭前野にプラスの電極、右側にマイナスの電極を置く配置で試験が行われました。
機器の構成は、Bluetoothでスマートフォンとつながるヘッドセット、生理食塩水を含ませて使う使い捨てのパッド、操作用のスマホアプリです。アプリが刺激の開始や一時停止を管理し、1日・1週間の上限を超えて使えないようにしています。医師の側は、患者がどれだけ使っているかを専用のウェブ画面で確認できます。
NBCの動画でサイアル医師は、昔の映画で描かれてきた電気けいれん療法(ECT)とは別物だと説明しています。ECTは全身麻酔をして行う治療で、主に重い症状の人に使われます。Flow FL-100の電流はそれよりずっと弱く、自宅のソファに座ったまま使う機器です。
対象は18歳以上の中等症から重症のうつ病。薬が合わなかった経験が多い人は対象外

FDAが認めた使い方(適応)は、18歳以上で、いま中等症から重症のうつ病(大うつ病性障害)のエピソードにあり、薬による治療で効果が得られない「治療抵抗性」とは見なされていない人です。単独で使うことも、抗うつ薬などのほかの治療と併用することも認められています。
使えるのは医師の処方を受けた人だけです。説明書には、医療者の治療を受けている人が、医療者の管理のもとで使うことと書かれています。うつ病の治療を自己判断で変えないこと、という注意もあります。
FDAの資料には、使ってはいけない人(禁忌)として次の2つが挙げられています。
・電極が当たる場所に傷や皮膚の損傷がある人
・電極が当たる場所の頭蓋骨を金属で再建している人
このほか、次に当てはまる人は、使う前に医師と相談するよう求められています。
・妊娠中、または妊娠の可能性がある人
・自殺や自傷を考えている人
・頭の中に金属のクリップや人工内耳、脳深部刺激の機器などがある人
・てんかんや発作と診断されたことがある人
・おでこや頭皮に乾癬などの皮膚の病気がある人開発会社は、18歳未満と妊娠中の使用は承認の対象外だと説明しています。
臨床試験には、2種類以上の抗うつ薬を十分な量と期間で試しても効果が不十分だった人は含まれていませんでした。FDAも、こうした人への効果については裏付けが限られると書いています。
1回30分、最初の3週間は週5回、その後は週3回まで

FDAの資料によると、使い方は1回30分です。最初の3週間は週5回、その後は週3回までのペースで続けます。臨床試験では、この組み合わせで10週間に合計36回の刺激を行いました。
ヘッドセットは充電式で、1回の充電で10〜15回ほど使えます。パッドは毎回新しいものに替えます。説明書では、パッドを使い回したり乾いたまま使ったりしないこと、パッドを湿らせるのに水道水を使わないことが注意されています。
アプリでは週に1回、うつ症状の自己評価の質問票(MADRS-s)に答えます。症状の変化を本人と医師が記録として追えるようにする仕組みです。
臨床試験では、偽の刺激と比べて症状の点数が2.3点多く下がった

承認の根拠になったのは、英国と米国で行われた「Empower」という臨床試験です。結果は2024年10月に英医学誌Nature Medicineに掲載されました。
試験では、うつ病の成人174人を、本物の刺激を受けるグループ(87人)と、最初と最後に一瞬だけ電流を流す偽の刺激を受けるグループ(87人)にくじ引きで分けました。本人も評価する側も、どちらのグループか分からない形で10週間、すべて自宅で行っています。
主な評価には、医師などが聞き取りで症状を点数化するハミルトンうつ病評価尺度(HDRS-17)が使われました。論文によると、10週間で点数は本物の刺激のグループで平均9.41点、偽の刺激のグループで平均7.14点下がりました。差はおよそ2.3点です。
FDAの資料では、症状がほぼなくなった状態とされる「寛解」に当たった人の割合が、本物の刺激で44.9%、偽の刺激で21.8%でした。症状の点数が半分以下になった人(反応)の割合は、FDAの解析で54.4%と26.9%です。開発会社が紹介している「57.5%が寛解」という数字は、別の評価尺度(MADRS)による副次的な結果です。
一方で、FDAは慎重な見方も添えています。2.3点という差が、患者にとって意味のある違いかどうかは確立されていないこと。試験の終わりに、本物の刺激を受けた人の77.6%が自分は本物のグループだと正しく当てていて、偽の刺激との区別がつきやすかった可能性があること。ブラジルで行われた別の試験では、偽の刺激を上回る結果が出なかったこと。こうした点から、FDAは効果について「中程度の不確かさがある」と書いたうえで、得られる利益は控えめだがリスクを上回ると判断しています。
主な副作用は皮膚の赤み・かゆみ・ピリピリ感。乾いたパッドでやけども

FDAの資料によると、試験で多かった副作用は次のとおりです(本物の刺激/偽の刺激)。
・皮膚の赤み:63.5%/18.5%
・かゆみ:50.6%/43.2%
・焼けるような感覚:43.5%/38.3%
・頭痛:42.4%/35.8%
・頭皮の痛み:21.2%/12.3%
多くは軽く、一時的なものだったとされています。頭痛は偽の刺激のグループでも同じくらい起きていました。本物の刺激のグループでは2人が軽いやけど(1度)を負っています。2人とも乾いたパッドを使っていたとのことで、数日で治り、その後は治療を続けました。機器との関連が認められた重い副作用は報告されていません。
FDAは、ほかの研究で報告された副作用として、めまい、吐き気、気分の悪化や不安の高まり、躁状態・軽躁状態なども挙げています。使っていて気分の変化や体の異常を感じたら、自己判断で続けたりやめたりせず、処方した医師に伝えることが前提になります。
初回は2,200ドル。オンラインの診察から自宅に届く仕組みも

開発会社の米国向けページによると、処方を受ける方法は2つあります。かかりつけの医師に相談する方法と、開発会社と提携する遠隔診療「Flow Care」を使う方法です。Flow Careでは、オンラインで条件の確認をしたあとビデオ診察を受け、処方が出ればヘッドセットが自宅に届きます。
価格は、初回の2,200ドル(ヘッドセット1台、パッド2箱、10週間分)です。遠隔診療を使う場合は、別に45ドルの診察料がかかります。続ける場合は、パッド1箱・4週間分で325ドルです。米国の医療費用の積立口座(HSAとFSA)の支払い対象になると案内されていますが、公的保険や民間保険が使えるかどうかは、このページには書かれていません。
NBCの動画では、最初の約3か月で2,000ドルほどかかると紹介されていました。
NBCの医師「効果がどれくらい続くかはまだ分からない」

NBCの動画でサイアル医師は、FDAが承認した治療であり、関心がある人は医師に尋ねることができると話しています。そのうえで、課題もはっきり指摘しています。
10週間の試験は参加者が200人に満たない規模で、大きな研究ではないこと。寛解した人の状態がどれくらい続くのか、10週間を過ぎても使い続ける必要があるのかは、まだ分かっていないこと。開発会社は6〜12か月使う人が多いとしているものの、それを裏付けるデータは公表されていないこと。薬を減らしたりやめたりできるのかについても、答えを出せるデータはまだない、とサイアル医師は話しています。
試験には、10週間のあとさらに10週間、全員が本物の刺激を受けた期間もありました。ただFDAは、この期間は偽の刺激と比べていないため、効果を判断する材料にはならないとしています。
日本での承認や販売の予定は発表されていない

FDAの資料によると、Flow FL-100は2019年から欧州連合と英国で、2020年からブラジル、2025年からオーストラリアで販売されています。日本での承認や販売の予定は、開発会社から発表されていません。今回のニュースは、米国で処方が始まったという話として受け止めるのが正確です。
なお、iPhoneのヘルスケアアプリには、不安やうつ病のリスクを自分で確認できる質問票があります。使い方はiPhoneのヘルスケアで不安とうつ病のリスクを確認する方法で紹介しました。ただし質問票は診断ではありません。
気分の落ち込みが続く、眠れない、何をしても楽しめないといった状態がつらいときは、ひとりで抱え込まず、医療機関に相談してください。相談先は、厚生労働省のまもろうよ こころや、働く人向けのこころの耳にまとめられています。
まとめ

Flow FL-100は、FDAが2025年12月にうつ病の治療用として承認した在宅用のtDCSヘッドセットで、米国では2026年9月から処方が始まりました。対象は18歳以上の中等症から重症のうつ病の人で、1回30分、最初の3週間は週5回のペースで使います。臨床試験では偽の刺激より症状の点数が多く下がり、寛解の割合も高かった一方、FDA自身が効果の大きさには不確かさがあると明記しています。
ウェアラブルが「体の状態を測る道具」から「医師の処方で治療に使う機器」にまで広がってきたことを示すニュースです。同時に、市販のガジェットとは違い、医師の診断と管理が前提の医療機器だという線引きも押さえておきたいところです。スマートウォッチの説明書にある「医療機器ではない」という注意書きの意味は、スマートウォッチにある「医療機器ではない」の注意書きの背景で解説しています。日本での扱いは決まっていないため、今後の発表を待つことになります。
Source: NBC News/U.S. Food and Drug Administration(PMA P230024)/Flow Neuroscience/Nature Medicine/アイキャッチ画像:Flow Neuroscience公式サイト
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