Apple Watchの心拍数測定機能はとても精度が高いことで知られています。
かつてスタンフォード大の研究グループがApple Watch, Fitbit, Samsungなど9つの代表的なスマートウォッチが表示する心拍数とエネルギー消費量(カロリー)を実際のデータと比較検証したことがありますが(*1)、最もエラー率が低いのはApple Watchだったということです。
正確に測定した心拍数を基に、Apple Watchは安静時心拍数、VO2Max, 心拍変動など、様々な健康指標データをユーザーに提供してくれます。Heart Rate Recovery(心拍数回復)もそのひとつなのですが、他の指標に比べるとあまり知られていないようです。
今回は、「心拍数回復とは何か」「なぜ重要なのか」について説明したいと思います。
【関連記事】
運動量やストレスでも数値が変化! スマートウォッチで「安静時心拍数」を計測すれば、心身の健康状態が見えてくる
スマートウォッチで測定可能なVO2Max(最大酸素摂取量)はアスリートの心肺能力を測定する有力な指標! その数値向上の方法も紹介
心拍数回復がアスリートにも一般人にとっても重要なわけ
心拍数回復とは運動をすることによって上昇した心拍数が、運動を止めた後にいかに速く通常に戻るかを示すものです。
1ラウンド3分間で間に1分間の休憩を挟む、ボクシングの試合を頭に思い浮かべて下さい。力量が似通ったボクサーが1ラウンド目から激しく打ち合ったとします。当然、ラウンドが終わった直後は2人とも最大心拍数に近くなっているでしょう。
1分間の休憩が終わった後で、ひとりは心拍数がそれよりずっと低くなるまでに回復して、もうひとりの心拍数はほんの少ししか変わらなかったとすれば、2ラウンド目からはどちらが有利かは明白です。
ボクシングではなくても、試合中に運動の強度が変化する多くのスポーツ(サッカー、バスケットボール、など)では、心拍数回復が速ければ速いほど有利になります。誰だって、心臓がバクバクしている状態では、自身最高のパフォーマンスを発揮することは難しいからです。
競技アスリートではない一般人でも、心拍数回復の数値が遅すぎる場合は、心拍機能に何かしらの問題が生じている可能性があります。
心拍数回復の「正常値」と「リスクの目安」を表でチェック
以下の表は、1分後と2分後の心拍数回復(HRR: Heart Rate Recovery)の目安を示しています。
これにより、自分の数値が健康的な範囲かどうかを確認できます。
計測時間 | 回復量の目安 | 評価 |
---|---|---|
1分後 | 13bpm以上 | 正常 |
1分後 | 12bpm以下 | リスクあり(自律神経機能や心臓の回復力が低い可能性) |
2分後 | 22bpm以上 | 正常 |
2分後 | 21bpm以下 | リスクあり |
心拍数回復と他の健康指標との関係性
以下のような健康指標と相関関係があります。Apple Watchの複数機能を連携させて健康状態を多面的にチェックしましょう。
健康指標 | 関係性 | Apple Watchでの測定方法 |
---|---|---|
安静時心拍数 | 低いほど心拍数回復が良好になりやすい | 自動記録 |
心拍変動(HRV) | 高いHRVは自律神経の柔軟性が高く、HRRが良くなる傾向 | ヘルスケアアプリで確認 |
VO2Max | VO2Maxの高い人は心肺機能が高く、回復も早い | ワークアウトの記録時に自動測定 |
Apple Watchが計測した心拍数回復をiPhoneで確認する方法
Apple Watchは心拍数回復を自動で計測してくれます。ユーザーはただApple Watchを着用して運動するだけです。
ただし、心拍数回復は運動が終わってから測定が始まりますので、最低でも運動終了後の数分間はApple Watchをそのまま手首に巻いておかなくてはなりません。
その後でiPhoneのフィットネス・アプリを開き、過去に行ったワークアウトを選択すると、その際に推移した心拍数のグラフが表示されます。
そして心拍数グラフを左から右にスワイプすると、運動終了時、1分後、2分後、それぞれの心拍数がグラフとともに表示されます。これが心拍数回復です。
心拍数回復の評価基準と向上させる方法
上の例ですと、私の1分後の心拍数回復は173-158 = 15bpm、2分後の心拍数回復は173-141 = 32bpm、ということになります。
ある研究(*2)によると、健康な心拍数回復の基準数値は1分後が13bpm以上、2分後が22bpm以上だということですので、私のそれはかろうじてその範囲に収まるようです。
もっとも、正確な心拍数回復の数値を知るためには、注意しなくてはいけないポイントがあります。
それは激しい運動を終了した直後にApple Watchの終了ボタンを押すことです。このタイミングが遅れると、心拍数がすでに下がった状態から測定が開始されますので、心拍数回復の数値は低く評価されてしまうことになります。
上と同様の理由だと思われますが、あまり心拍数が高くならない程度の運動ですと(例:ウォーキングやゆっくりとしたジョギングなど)では、Apple Watchは心拍数回復の数値を表示しません。
安静時心拍数やVO2Maxと同じように、心拍数回復の範囲は個人によって異なるうえ、加齢によっても衰えます。またそのときの健康状態によっても数値は大きく変化します。そして勿論、トレーニングと生活習慣によって向上させることも可能です。
定期的に運動を行うこと、バランスの良い食事をすること、睡眠の量と質を高めること、適切な水分補給を行うこと。当たり前と言えば当たり前なのですが、健康に良いとされるこうした習慣を継続することで、心拍数回復の数値も向上するはずです。
心拍数回復を高めるトレーニングと生活習慣
Apple Watchで定期的に心拍数回復をチェックしつつ、以下のような習慣を取り入れることで、数値の向上が期待できます。
・有酸素運動:ジョギング、サイクリング、水泳などを週3回以上行う
・インターバルトレーニング:高強度→低強度を交互に繰り返す運動を取り入れる
・十分な睡眠:7〜9時間の質の高い睡眠を確保する
・食生活の改善:抗酸化作用のある食材(野菜、果物、ナッツ類)を積極的に摂る
・ストレス管理:瞑想や深呼吸などで交感神経優位の状態を和らげる
*1. Accuracy in Wrist-Worn, Sensor-Based Measurements of Heart Rate and Energy Expenditure in a Diverse Cohort.
https://www.mdpi.com/2075-4426/7/2/3
2. Heart Rate Recovery: Powerful Prognosticator Now on Apple Watch.
https://www.medpagetoday.com/opinion/skeptical-cardiologist/83528
●執筆者プロフィール 角谷剛(かくたに・ごう)
アメリカ・カリフォルニア在住。米国公認ストレングス・コンディショニング・スペシャリスト(CSCS)、CrossFit Level 1 公認トレーナーの資格を持つほか、現在はカリフォルニア州アーバイン市TVT高校でクロスカントリー走部監督を務める。年に数回、フルマラソンやウルトラマラソンを走る市民ランナーでもある。フルマラソンのベストタイムは3時間26分。公式Facebookはhttps://www.facebook.com/WriterKakutani