サムスンが「ヘルス基盤モデル」の研究を公開|脈波から心電図に近い情報を読み、時計の中だけで1ミリ秒未満で処理する

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腕に着けたスマートウォッチと、拡大鏡で生体信号の波形を読み解くイラスト。心拍や活動量のアイコンが並んでいる

サムスン電子が2026年9月15日、スマートウォッチなどのウェアラブル機器が測る生体信号をAIで読み解く「ヘルス基盤モデル」の研究成果を紹介しました。Samsung Research America(SRA)のDigital Health Teamが開発した、xMAEとHiMAEという2つのモデルです。

ざっくり言えば、手首で測れるデータから、これまで測れなかった情報を読み取ろうとする研究です。xMAEは脈波から心電図に近い情報を引き出し、HiMAEは時計の中だけで処理を完結させることを目指しています。

いずれも研究段階の発表で、製品への搭載時期は示されていません。ただ、今後のGalaxy Watchの健康機能がどこへ向かうのかを知る手がかりにはなります。

ヘルス基盤モデルとは何か

ヘルス基盤モデルとは、ラベル付けされていない生体信号データから、健康に関わる意味のある特徴を自分で学習するAIモデルのことです。

通常の機械学習では、「このデータは睡眠中」「これは不整脈」といった正解ラベルを人が付けたデータが必要になります。ヘルス基盤モデルは、大規模な健康データで事前に学習しておくことで、そうしたラベルが少なくても使えるようにするという考え方です。サムスンによると、生体信号の解析、新しいバイオマーカーの開発、既存のバイオマーカーの精度向上、健康リスクの予測といった幅広い用途に活用できるとしています。

今回の2つのモデルは、いずれも国際的な機械学習の学会で採択されています。xMAEとHiMAEの研究は、それぞれICML(International Conference on Machine Learning)とICLR(International Conference on Learning Representations)で認められたとのことです。

xMAE:手動で心電図を測らなくても、心臓の状態を読む

xMAEの仕組みを示した図。雷の光と音の時間差の例えと並べて、心臓の電気的活動(ECG)と手首に届く脈波(PPG)の時間差を学習することが示されている

xMAEは、光と音の時間差のようにECGとPPGのずれを学習する(図:Samsung)

スマートウォッチで心臓の状態を測る方法は、大きく2つあります。

1つが心電図(ECG)です。心臓の電気的な活動を直接測るもので、心拍数や心拍変動の測定、不整脈や心房細動のリスクを見つけるのに役立ちます。精度は高いのですが、通常はユーザーが自分で操作して測る必要があります。

もう1つが光電容積脈波(PPG)です。血流の変化を検知して、心臓の働きを間接的に測ります。こちらはスマートウォッチのセンサーが自動で測るため、意識しなくても継続的にデータが取れるのが強みです。

この2つは同じ心臓の活動に由来しますが、観測されるタイミングには一定のずれがあります。サムスンはこれを、雷が光ってから音が聞こえるまでの時間差にたとえています。

xMAEは、継続的に測れるPPGのデータを使ってECGのデータの一部を再構成することで、2つの信号の時間的な関係を学習するように設計されました。これにより、ユーザーが別途手動で心電図を測らなくても、脈波から心血管の健康に関わる特徴をより正確に分析できるようになるとしています。

19の評価のうち15で既存手法を上回った

研究チームは、約9,400時間分のECG・PPGデータを使ってxMAEを事前学習させました。

その結果、心血管疾患の予測、異常な検査結果の検出、睡眠段階の分類を含む19の評価タスクのうち、15項目で単一の生体信号を使うモデルや既存の手法を上回る性能を示したとしています。

さらに、このモデルが学習した特徴は、異なるセンサーの機器や、身体のどこに着けるか、どんな環境で取得したかをまたいでも活用できる可能性が確認されたということです。腕時計型で学んだことが、別の形のウェアラブルでも生きる可能性がある、という意味になります。

HiMAE:時計の中だけで、1ミリ秒未満で処理する

HiMAEの仕組みを示した図。腕のスマートウォッチから伸びた3つの波形が、それぞれ異なる時間の幅で拡大して表示されている

HiMAEはウェアラブルのデータを複数の時間幅で学習する(図:Samsung)

もう1つのHiMAEは、時間の幅に注目したモデルです。

ウェアラブルで測る健康データは、どのくらいの時間幅で見るかによって分かることが変わります。短い時間で見れば心拍のように速く変化する信号を捉えられますが、睡眠や身体活動のようにゆっくり現れるパターンは、長い時間で見ないと分かりません。サムスンはこれを、画像を拡大したり縮小したりすると見えるものが変わることにたとえています。

HiMAEは複数のエンコーダを使って、短い時間のデータと長い時間のデータをそれぞれ分析します。学習の際にはデータの一部を隠し、その部分を復元するように訓練することで、ラベル付きデータが限られていても重要なパターンを学べるようにしています。

実用面で大きいのが処理の軽さです。事前学習済みの1つのHiMAEモデルで、分類、数値の予測、データの生成に対応でき、既存のモデルより小型でありながら高い性能を達成したとしています。しかもスマートウォッチ級のCPUでも1ミリ秒未満で結果を出せる効率で動きます。

サムスンは、HiMAEについて「クラウドサーバーに依存することなく、生の健康データをリアルタイムで解析できるオンデバイス型のヘルス基盤モデルの可能性を初めて示した」としています。健康データを時計の外に出さずに処理できるなら、プライバシーの面でも、通信が届かない場所での動作という面でも意味があります。スマートウォッチの健康データが実際にどう扱われるのかは、各社の規約を条文で確かめた記事で整理しています。

「Connected Care」というビジョンの一部

今回の研究は、サムスンが2026年7月のGalaxy Unpackedで開かれた「Health Forum」で示した「Connected Care(つながるケア)」というビジョンにつながるものです。

これは、症状が出てから対処する医療から、日頃のデータで健康状態を把握して一人ひとりに合った予防やケアにつなげる方向へ移そうという考え方で、医療・健康分野のパートナーとの連携を前提としています。ヘルス基盤モデルは、その体験を支える技術の1つという位置づけです。現行のGalaxy Watchで何がどこまで測れるかは、Galaxy Watch Ultra2の実機レビューで確かめています。

サムスンは今後も、さまざまな生体信号に使えて、限られたセンサーや計算資源でも端末上で動く健康機能の実現に向けて、ヘルス基盤モデルの開発を続けるとしています。

まとめ

xMAEは、常時測れる脈波から心臓の状態をより正確に読み取るための研究です。HiMAEは、時間の幅を変えながらデータを読み、しかもクラウドに送らず時計の中で処理するための研究です。

どちらも論文として学会に採択された段階で、Galaxy Watchのどのモデルにいつ載るのかは発表されていません。今回の発表から読み取れるのは、サムスンが「手動で測る機能を増やす」方向ではなく、ふだん着けているだけで取れるデータから、どれだけ多くを読み取れるかに力を入れている、ということです。

ユーザーから見れば、操作を増やさずに分かることが増えるのが理想です。一方で、AIが出す健康スコアをどこまで信じてよいのかという問題もあります(準備度スコアの中身と限界)。その意味で、今回の2つの研究はどちらもその方向を向いています。

Source・画像出典: サムスン電子ジャパン プレスリリース(共同通信PRワイヤー)

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