「そのスマートウォッチの健康データ、信用していい?」米国の内科医が引いた境界線|睡眠スコアは参考、ECGは臨床で使える【海外ニュース】

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Apple Watchに関するイメージ画像

手首に表示される睡眠スコアや心拍数を、どこまで信じていいのか。これはスマートウォッチを使っている人なら一度は思うことだと思います。米ワシントンD.C.の放送局7Newsが、内科医のDr. Sos Mboijana氏にこの問いをぶつけたインタビューを公開しました。答えは「使える数字」と「参考にとどめる数字」をきちんと分ける、という現実的なものでした。そして日本でも、医師400名を対象にした同じテーマの調査があります。両方を並べると、いま起きていることの輪郭がかなりはっきりします。

米国では成人の41.1%がウェアラブルを所有

まず前提となる数字から。イェール大学医学部の研究チームが2020年から2024年の全米健康調査データを分析した結果が、学術誌「NPJ Digital Medicine」に掲載されています。それによると、米国の成人のウェアラブル所有率は36.1%増加し、2024年には41.1%に達したとのこと。

同時にこの研究は、興味深いギャップも指摘しています。ウェアラブル利用者の大半は「健康データを医師と共有してもよい」と考えているのに、実際に共有したことがある人は5人に1人未満だったのです。

研究チームの結論は、ウェアラブル技術には医療を改善する大きな可能性があるものの、多くの人がデバイスを継続的に装着しなかったり、データを医療に組み込まなかったりするため、その効果は限定的にとどまっている、というものでした。

患者が聞くのは「これ、信用していいですか」

Permanente Medical Groupに所属するMboijana氏は、この広がりを診察室で実感していると語ります。

「確実にアクセシビリティは上がりました。コストが下がったのも小さくない。これだけデバイスが普及したことで、私の診察室でも、内科医としての診療の場でも、こうしたデバイスを目にすることがずっと増えています」

そして患者から寄せられる質問は、ガジェットそのものについてではないといいます。

「よく受ける質問は『これは正しいのか』『これは役に立つのか』『これは私の健康に役立っているのか』『これをどう使えば結果を改善できるのか』。たいてい、その裏側には健康に関する疑問があります」

氏はこの関心の高まりをポジティブに捉えています。「こういう質問を持ってくる患者さんは、自分の健康に積極的に関わっていて、健康状態や指標を追いかけることに関心がある。それ自体がすでに1つの勝利です」

睡眠スコアは「参考」であって「医療機器の測定値」ではない

いまのスマートウォッチやスマートリングの多くは、睡眠時間と睡眠段階の内訳から毎晩スコアを算出します。この点についてMboijana氏の見解ははっきりしています。

雨の日に手首に着けたApple Watchの画面を確認している様子

「睡眠にまつわるデータを見て、さまざまな睡眠段階を測定しているという意味では正確です。ただ、医療機器・医療ツールとして妥当性が検証されているかというと、そこまでは至っていません」

理由は算出方法にあります。「睡眠準備度」「回復度」「睡眠の質」といったスコアは、各社が独自のアルゴリズムで計算しています。医師の側からすると、その数字がどう作られているのか分からない。分からないものを診断や治療の根拠にはできない、というわけです。

「睡眠スコアや回復スコアのような、多くのレポートや指標があります。ただ、その多くは各社独自のもので、健康アウトカムを語れるように検証されているとは限りません」

一方で、臨床で使える機能もある

ただし、すべてが「参考程度」というわけではありません。Mboijana氏は臨床的に検証済みの例として、一部のスマートウォッチに搭載されているFDA認可の心電図(ECG)機能と、糖尿病の人が使う持続血糖測定器(CGM)を挙げています。これらは医師が医療の中で自信を持って使えるウェアラブル技術だとしています。

実際、心電図まわりでは症例報告や比較研究が積み上がってきています。ここが「参考の数字」と「使える数字」を分ける境界線ということになります。

見るべきは1日の数字ではなく「傾向」

では一般の利用者はどう向き合えばいいのか。Mboijana氏の答えは明快で、アスリートがやっているように時間をかけてパターンを見ることだといいます。

「デバイスに慣れて、長期的に使い、傾向を見る、という考え方に近いです。すべては傾向を追うことなんです」

面白いのは、新しいデバイスを着けはじめたこと自体が一時的に睡眠に影響する、という指摘です。監視されていると意識してしまうためで、「落ち着くまで少し時間をあげてほしい」と氏は言います。

1晩のスコアに一喜一憂するのではなく、「何が変わったか」を自分に問うほうが有益だとも述べています。いつもより遅い時間に運動したか。お酒を飲んだか。移動があったか。睡眠時間がふだんより短かったか。こうした傾向の蓄積が、健康や習慣についての手がかりになっていきます。

日本の医師はどう見ているのか

ここで日本の状況も重ねてみます。デジタルバイオマーカー開発を手がけるテックドクターが2025年4月に公表した、医師400名を対象とした調査があります。

結果はこうでした。7割の医師がスマートウォッチの診療活用に好意的で、31%はすでに診療に取り入れており、42%は今後活用したいと考えている。主に活用されているのは内科と循環器科で、整形外科や精神科でも今後の活用が期待されています。

注目したいのは、挙げられた課題が米国の医師の指摘とほぼ重なることです。日本の調査で多く挙がったのは「データの精度検証」と「医療機関の受け入れ体制の整備」でした。前者はMboijana氏が言う「独自アルゴリズムだから使えない」という話であり、後者はこの後に出てくるデータの受け皿の問題です。

そして、未活用の医師の7割が「データの有用性に期待している」と答えています。つまり医師の側が拒んでいるわけではなく、精度が確認されれば使いたいと思っている。日米で同じ構図が見えます。

データを渡しても、受け止める側が追いつかない

イェール大学の研究が示した「共有したいけど共有していない」というギャップについて、Mboijana氏は医療システム側の課題を率直に語っています。

iPhoneのヘルスケアアプリに表示された高血圧の可能性の通知。次のステップとして医師への相談を勧める文言が表示されている

「データは大量にあります。ここでの課題は、この全部のデータをどうするのか、ということです。私が電子カルテに取り込んで意味を読み取れる形に、どう整理するのか」

氏はAIおよび新興技術のメディカルディレクターも務めており、いずれAIが医師のウェアラブルデータ分析を大きく効率化すると考えています。「いまは洪水のような、その中間の段階にいます。私にとってだけでなく、あなたの健康にとっても役立つ形で、インサイトを引き出せるようになる必要があります」

そのうえで、患者はためらわずにウェアラブルのデータを診察に持ち込んでいい、と述べています。ただし、デバイスが出力するすべてのグラフや図に対して、医師がその場で答えを持っていると期待すべきではない、とも。

デバイス選びは「メーカーのサイトから始めない」

数えきれないほどの製品が並ぶなかで、どう選ぶか。Mboijana氏の助言は、派手なマーケティングに流されず、まずシンプルな問いから始めることだといいます。

「体重を落としたいのか。代謝の健康を見たいのか。マラソンのトレーニングをしたいのか。デバイスを買う目的は何なのか」

そして購入前にかかりつけ医と話すことを勧めています。多くのウェアラブルが数百ドルするからこそ、なおさらだと。

「メーカーは素晴らしい。でも私ならメーカーのサイトから始めません。細かいところまで掘り下げて、迷路にはまり込むことになります」

医師なら、患者の健康目標にデバイスを合わせ、どの測定項目に医学的な裏付けが強いのかを説明できる、というのが氏の考えです。

「トラッカー」から「生理学的モニター」へ

イェール大学の研究者たちは、技術の進歩と利用の定着によって、ウェアラブルが予防医療の重要な一部になる可能性があるとしています。Mboijana氏も同意見です。

「単なるトラッカーのような健康記録の道具から移りつつあります。いまはもっと生理学的なモニターに近いものへと向かっていて、格段に高度になってきています」

まとめ:診断には使えないが、行動は確実に変わる

整理すると、Mboijana氏が引いた線はこうなります。ECGやCGMのように検証済みの機能は医療で使える。独自アルゴリズムのスコア類は参考にとどめる。そして誰にとっても有益なのは、1日の数字ではなく長期の傾向を見ることです。

ここに1つ付け加えておきたいことがあります。診断に使えないからといって、スマートウォッチが健康に無意味なわけではありません。スタンフォード大学が2022年に発表したメタ分析(Lancet Digital Health)では、800を超える文献を分析した結果、活動量トラッカーの装着によって平均で1日1,800歩(約40%)の歩数増加体重は平均1kgの減少、血糖値やコレステロールの改善まで確認されています。

つまり「数値の正確さ」と「健康への効果」は別の話です。スコアの精度が医療水準に届いていなくても、毎日それを見ること自体が行動を変える。ここはすでに科学的に裏づけられている領域です。

だからこそ、使い方の落としどころは分かりやすいと思います。スコアは自分を動かすための道具として使い、診断は医療機関に任せる。そして気になる傾向が出たら、そのデータを持って病院に行く。日本の医師の7割が活用に前向きだという調査結果を見る限り、持ち込まれて困る医師はそう多くないはずです。

Source: 7News(WJLA)NPJ Digital Medicine掲載のイェール大学医学部の研究(画像:スマートウォッチライフ編集部撮影、Unsplash)

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