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スマートウォッチが「睡眠時無呼吸の兆候があります」と教えてくれる時代になりました。では、その通知を受け取った人は、その後どうしているのでしょうか。
フィリップス・ジャパンが2026年9月2日に開いたメディアラウンドテーブルで、その答えにあたる数字が示されました。国内の中等症以上の潜在患者は940万人。一方、CPAP治療を受けている患者は約73万人。9割以上が、診断にも治療にもたどり着いていないという現実です。
登壇したのは、クリニックフォアグループ会長CMO兼クリニックフォア田町院長の村丘寛和氏。数字の背景と、2026年6月に変わった制度について解説しました。スマートウォッチの「気づき」がどこで止まっているのかを考えるうえで、示唆に富む内容だったので整理します。
940万人と73万人の間にあるもの

潜在患者940万人に対しCPAP治療は約73万人にとどまると説明した村丘寛和氏(画像:フィリップス・ジャパン)
睡眠時無呼吸症候群(SAS)は、厚生労働省の健康用語辞典でも「眠り出すと呼吸が止まってしまうため、過眠や高血圧などを引き起こす病気」と説明されている疾患です。放置すると高血圧や糖尿病、心血管疾患のリスク上昇に関わるほか、日中の眠気による生産性の低下や交通事故のリスクにもつながる可能性があるとされています。
村丘氏は、SASを「単なるいびきの問題ではなく、命と日中の生活の質に関わる疾患」と位置づけました。そのうえで示されたのが冒頭の数字です。940万人と73万人。割合にすると、CPAP治療に届いているのは7.8%にすぎません(940万人に対する73万人から本サイトで算出。マウスピースなどCPAP以外の治療は含みません)。
スマートウォッチやスマートリングの側では、検知の精度は着実に上がっています。Galaxy Watchが中等度以上の睡眠時無呼吸を94%の感度で検出したという研究が出ていますし(感度は見逃しの少なさを示す指標です)、FDAの認可を受けた医療用スマートリングが97%の精度で睡眠時無呼吸を判定したと発表された事例もあります。
つまり「気づく」技術は揃ってきた。それでも9割以上が治療に届かないのだとすれば、詰まっているのは気づきの手前ではなく、その先ということになります。
受診者が8倍になったのは「患者が増えた」からではない
今回いちばん興味深かったのが、この解釈です。
クリニックフォアグループでの対面診療(保険診療)におけるSASの月間受診者数は、2020年7月から2026年6月にかけて約8倍に増えたといいます(同グループ調べ、2020年7月と2026年6月の単月比較)。
普通に読めば「SASの患者が増えた」と受け取りたくなる数字です。しかし村丘氏の説明は違いました。これは患者が増えたのではなく、相談先を見つけた潜在患者が顕在化している状態だ、と。
もともと940万人がそこにいた。ただ、どこに行けばいいか分からなかった。その導線ができた分だけ、数字の上に現れてきた。8倍という数字は、病気の増加ではなく「見つかりやすさ」の変化を映しているという読み方です。
スマートウォッチの通知も、この文脈に置くと役割がはっきりします。通知そのものが病気を作るわけではなく、もともとあった状態を可視化しているだけ。問題は、可視化した後の行き先があるかどうかです。
2026年6月、制度が2つ同時に変わった
その行き先について、実は今年大きな変化がありました。村丘氏によれば、2026年6月に次の2つが同時に施行されています。
| 変わったこと | 意味 |
|---|---|
| 「睡眠障害」標榜の解禁 | 医療機関が診療科目として睡眠障害を掲げられるようになった 探す側から見つけやすくなる |
| CPAP治療の保険適用基準の緩和 | 保険で治療を受けられる対象が広がったとされる 適用の可否は検査結果と医師の判断による |
「探しにくい」と「治療費が重い」という2つの壁が、同じタイミングで下がったことになります。村丘氏は「いびきや眠気を年齢や疲れのせいと片づけず、一度相談してほしい」と呼びかけました。
スマートウォッチで睡眠を測っている人にとっては、通知を受け取ってから動くまでのハードルが、今年から一段低くなっているという話です。
働き盛りが受診しない3つの理由
では、なぜこれまで後回しにされてきたのか。村丘氏が挙げたのは次の3点でした。
・平日の日中に時間が取れない
・入院しての検査に心理的な負担がある
・そもそもどこに相談すればいいか分からない
どれも「症状を軽く見ている」という話ではなく、医療につながる構造の問題です。とくに2つ目については、いまは自宅に届いた機器を使い、普段の就寝環境で測定する在宅検査という選択肢が広がっています。会場でも在宅検査機器とCPAP機器のデモンストレーションが行われ、検査のイメージが紹介されました。
CPAP治療については、睡眠中にマスクを着けて機器から空気を送り、気道がふさがるのを防ぐ治療だと説明されました。装着当初は違和感を覚える場合もある一方、続けるうちに慣れていく人も多いとしています。
スマートウォッチの「気づき」はどこまで行けるか
フィリップス・ジャパン代表取締役社長の安部美佐子氏は、SASの認知度が高まりつつある一方で、自覚症状があっても受診行動に至らないケースがあるとして、潜在患者の「気づき」を「受診」につなげることが健康を守る第一歩になると説明しました。
ここが、手首のデバイスを毎晩着けている人に直接関わる部分です。一般的なスマートウォッチやスマートリングは医療機器ではなく、それ自体が診断をするものでもありません(一部に医療機器の認証を受けた製品はありますが、多くの睡眠計測機能は対象外です)。それでも、自分では気づけない夜間の状態を毎日記録し続けているという点では、他に代わりのない道具です。
940万人と73万人のギャップは、裏を返せば「気づきを受診に変換する」余地がそれだけ残っているということでもあります。通知が出たときに何をすればいいのか、どこへ行けばいいのか。デバイス側が示せる答えはまだ限られていますが、制度の側は今年動きました。
まとめ
フィリップス・ジャパンのメディアラウンドテーブルで示されたのは、中等症以上の潜在患者940万人に対し、CPAP治療を受けているのは約73万人という数字でした。CPAP治療に届いているのは7.8%にとどまります。
受診者数が8倍に増えたのは患者が増えたからではなく、相談先を見つけた人が顕在化しただけ。そして2026年6月には「睡眠障害」標榜の解禁とCPAP保険適用基準の緩和が同時に施行されたと村丘氏は説明します。受診の入り口は、これまでより広がりました。
毎晩スマートウォッチで睡眠を測っている人ほど、この数字は自分に関係のある話として読めるはずです。いびきや日中の眠気が続いているなら、デバイスの記録を手土産に一度相談してみる。今年はそれがしやすくなった年だ、というのが今回の主旨でした。
Source: 株式会社フィリップス・ジャパン プレスリリース/画像:フィリップス・ジャパン
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