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中国・湖南文理学院のHaiwen Deng氏が、手首と腰に1つずつ着けた2つのセンサーで運動の種類を見分け、その結果を使って消費カロリーを推定する仕組みを発表しました。論文はSpringer Natureの査読誌『Discover Artificial Intelligence』に2026年10月7日付で掲載されています。立つ・歩く・スクワット・腕立て伏せなど8種類の運動を95.4%の正確さで見分け、消費カロリーのずれは、比べた市販の腕時計型トラッカーより約3割小さくなりました。
スマートウォッチの消費カロリーは、実際の値から10〜20%以上ずれることがあると分かっています。この研究は、そのずれを「いま何の運動をしているか」を加えて小さくしようとしたものです。
紹介記事の見出しにある「Self-Powered(自己発電)」は、論文ではバッテリーを長持ちさせる補助という扱いです。95%も、消費カロリーではなく運動の種類を見分ける正確さの数字です。
スマートウォッチの消費カロリーがずれやすい理由
腕時計型のデバイスは、手首の動きと心拍数などから消費カロリーを推定しています。消費カロリーは測定値ではなく推定値で、低めに出やすい傾向も指摘されています。運動の種類によってずれ方も変わります。
論文が例に挙げるのは、スクワットと腕立て伏せです。体幹の揺れの大きさが同じくらいでも、スクワットは体の重心を何度も上下させ、腕立て伏せは使う筋肉がまったく違います。動きの大きさだけを見ていると、この違いを消費カロリーに反映できません。そこでこの研究では、まず運動の種類を見分け、その結果を消費カロリーの計算に入れる2段構えにしました。
利き手の手首と腰に1つずつセンサーを着ける
試作したセンサー「EPS-01」は、加速度センサー(最大±16G)とジャイロセンサー(最大毎秒2,000度)、マイコン、無線通信、発電と蓄電の回路を1つにまとめたものです。これを利き手の手首と、腰の背中側(腰椎のいちばん下のあたり)に1つずつ着けます。手首で腕の細かな動きを、腰で体全体の動きをとらえる配置です。
2つのセンサーは1秒に100回ずつ動きを記録し、無線で送ります。運動の種類を見分ける計算はセンサーの中ではなく、センサーとつないだモバイル機器側の処理装置で行っています。
8種類の運動を95.4%の正確さで見分けた
実験には18〜35歳の60人(女性30人、男性30人)が参加しました。運動の経験が少ない人から、日ごろから鍛えている人まで含まれています。運動は次の8種類で、それぞれ5回ずつ行い、合計2,400回分のデータを集めました。
・立つ
・歩く
・ジョギング
・スクワット
・ランジ(片足を前に踏み出して腰を落とす運動)
・ジャンピングジャック
・上体起こし
・腕立て伏せ
見分けるには、AIの手法を2つ組み合わせています。前半の「CNN」がセンサーの波形から動きの特徴を読み取り、後半の「SVM」がその特徴をもとに8種類のどれかを判定します。60人のうち42人分のデータで学習させ、AIが一度も見ていない12人分のデータで正確さを確かめました。知っている人の動きのクセを覚えて当てたのではない、という確かめ方です。
結果は95.4%で、ほかの方式より高くなりました。
| 方式 | 正しく見分けた割合 | 1回の判定にかかる時間 |
|---|---|---|
| 今回の方式(CNN+SVM) | 95.4% | 6.3ミリ秒 |
| Transformer(小型版) | 94.6% | 14.8ミリ秒 |
| LSTM | 94.1% | 9.7ミリ秒 |
| CNNのみ | 93.2% | 記載なし |
| 従来型のSVM | 88.7% | 記載なし |
判定は2.56秒分の動きを1つの区切りにして、1.28秒ごとに更新されます。1回の判定にかかる時間は平均6.3ミリ秒なので、運動しながらその場で結果を返せる速さです。
いちばん間違えやすかったのはスクワットとランジで、正解はそれぞれ60回中56回と54回でした。どちらも膝と股関節を曲げ伸ばしする動きだからです。上体起こしと腕立て伏せも、動きの切り替わりの場面で少し取り違えがありました。
運動の種類を加えると消費カロリーの誤差が小さくなった
消費カロリーの正解には、呼吸のたびに吐く息を分析して消費エネルギーを求める「間接熱量測定」を使いました。スマートウォッチの消費カロリーを検証する研究でも基準に使われる方法です。参加者は4種類の運動を軽め・中くらい・きつめの3段階で5分ずつ行い、合計720回分を測りました。
推定には、運動の種類のほか、心拍数、動きの激しさ、運動のテンポ、体重、年齢を入れています。AIの細かな設定は「ベイズ最適化」という方法で自動的に絞り込みました。設定を試しては結果を見て、次に試す設定を賢く選ぶやり方で、50通りを試して最も誤差の小さい組み合わせを選んでいます。
誤差は「RMSE」という指標で比べています。推定と実際の差を平均した値で、1分あたり何kcalずれたかを表し、小さいほど正確です。
| 推定の方法 | 誤差(RMSE) |
|---|---|
| 今回の方式(設定を最適化) | 1分あたり0.82kcal |
| 今回の方式(設定は初期値のまま) | 1分あたり1.12kcal |
| 運動強度の目安(METs)から計算する一般的な方法 | 1分あたり1.47kcal |
| 市販の腕時計型トラッカー(20人で比較) | 1分あたり1.21kcal |
METsから計算する一般的な方法と比べると、誤差は44.2%小さくなりました。市販の腕時計型トラッカーとは、参加者のうち20人で同じ運動を比べています。トラッカーの誤差は1分あたり1.21kcal、今回の方式は0.82kcalで、約3割小さい計算です。トラッカーには運動の種類を見分ける表示もありませんでした。
ただし、比べたトラッカーの機種名は論文に書かれていません。論文自身も、今回の方式の価値は運動ごとの細かなフィードバックにあり、腕時計1つで済む手軽さに取って代わるものではないとしています。
「自己発電」はバッテリーを長持ちさせる補助
センサーには、体の動きから電気を取り出す発電の仕組みと、電気をためておくスーパーキャパシタ(電気をすばやく出し入れできる蓄電部品)が入っています。紹介記事の「Self-Powered」はこの部分を指しています。
論文によると、この発電は運動中にセンサーを長く動かすための補助です。無線通信や計算がいちばん電気を使う場面の電力を、発電だけでまかなうことはできません。屋内での運動や服の下に着けたときなど、発電が足りないときは、送信の間隔を広げたり、まとめたデータだけを送ったりして電池をもたせます。
論文には屋外で太陽光から得られる電力の計算も載っていますが、これは理論上の上限で、実際に使える電力を保証するものではないとされています。また、発電した電気の量は消費カロリーの計算には使っていません。
年齢層・屋外・きつい運動での精度はこれから
論文は、まだ確かめられていない点を次のように挙げています。
・参加者は18〜35歳の若い成人だけで、高齢の人や病気のある人では試していない
・実験は指導者が付いた屋内で行い、ふだんの生活や屋外では試していない
・センサーがずれた場合に精度が落ちるおそれがある
・運動がきついほど誤差が大きい(1分あたり、軽め0.55kcal、中くらい0.78kcal、きつめ1.08kcal)
・きつい運動では、フィルターで取り切れない雑音が残る
今後は、高齢の人や病気のある人での検証、屋外やふだんの生活の中での検証、センサーの着け位置のずれの自動補正などを進めるとしています。製品化の予定は書かれていません。
まとめ
湖南文理学院の研究は、手首と腰に着けた2つのセンサーで運動の種類を95.4%の正確さで見分け、その情報を消費カロリーの推定に入れることで誤差を小さくできることを示しました。60人のうちAIが学習していない12人で確かめた数字で、比べた市販の腕時計型トラッカーより誤差は約3割小さくなっています。
一方で、センサーは2つ着ける必要があり、試したのは若い人の屋内での運動だけです。比べた市販品の機種名も明かされていません。スクワットか腕立て伏せかまで分かって消費カロリーを出す仕組みが、腕時計1つで実現できるかどうかは、これからの研究しだいです。
Source:Deng H. (2026) Research on sports exercise posture monitoring and energy consumption law based on energy power sensors. Discover Artificial Intelligence 6, Article 1384(CC BY-NC-ND 4.0)
Scienmag(bioengineer.org)
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